てんかんとは (てんかんに関する包括的説明)



目次

  1. 発作はどうして起きるか?
  2. 発作のタイプ
  3. てんかんの頻度と発症年齢
  4. 薬物療法
  5. 日常生活の注意点
  6. てんかんの手術
  7. てんかんの法的支援 (自立支援-精神通院)


この三つが必要不可欠です.,しっかりと頭に入れておきましょう.


  • 頻度と発生年齢
  • 成人になって、突然にてんかん発作が起きると、大概の方はびっくりします。
    でも、てんかんとは、常に突然起きるものなのです。
    また、生まれてから死ぬまで、どの年齢でも発生します。
    てんかんにかかっている人の割合は、1%、100人に1人ときわめて高率です。
    これは、脳の病気の中でもきわめて高率です。
    小児期のてんかん発作は,放置すると知的障害につながる場合が多いので,必ず専門家の診断をあおぐ必要があります.
    小児てんかの外科的治療については,別の章に詳しく述べてあるので,参照して下さい.
    50代以上の高齢でてんかん様の発作が起きた場合は、脳血管障害、心臓病、糖尿病など他の成人の病気と鑑別することが大切です。
    最近は,65歳以上の高齢者のてんかんが注目されています.
    高齢者のてんかんは,記憶障害を主訴に始まることが多く,認知症と誤診されることが多いので注意が必要です.
    また、20歳前後の若い人は、不安神経症といって、てんかんのようにけいれんしたり、意識がもうろうとなったりすることがあります。
    急に不安感が襲い、酸素が足りないような気持ちになり、過呼吸から意識がもうろう、けいれんと続くのは、代表的な不安発作で、
    過呼吸症候群とも呼ばれます。

  • てんかんの薬物療法
  • てんかんの治療はまず薬物療法を行います。
    発作型に応じて、処方する薬の内容が異なります。
    また、てんかんの薬は、血液に移行した薬剤の濃度(血中濃度)を測定して、投与量を厳密に決定します。
    発作の止まりにくい場合は、血中濃度を治療域の一番高いところまで持って行く必要があります。
    てんかんの専門医にかかれば、てんかんを持った患者さんの70-80%は薬剤でコントロールが可能です。
    しかし、薬剤の調節は非常に高度の知識と経験が必要ですので、必ずてんかん治療の長い経験をもった専門医にかかって下さい。
    患者さんの中には、何年間も薬を飲み続けるのを嫌がる方もいます。
    しかし、てんかんという病気は、薬さえ飲んでいれば、病気も進行せず普通の生活を送れる数少ない脳の病気のひとつです。
    薬でてんかん発作がコントロールされている方は、これを幸運と考え、怠薬などにより発作を起こさないように心がけ、
    前向きに人生を送りましょう。
    脳の病気の多くはいくら薬を飲んでも徐々に病気が進行し,最後は大脳機能が廃絶してまうものが少なくなくありません.
    その点,成人のてんかんは,自分に合った薬をきちんと服薬していれば,最後まで大脳機能を保ったまま,人生を
    全うすることが可能なのです. (てんかんの薬物療法については,他の章に詳しい説明があります.)

  • 日常生活での注意
  • てんかん発作の予防には、日常のライフスタイルがきわめて重要です。
    てんかん発作の引き金になりやすいのは、以下のような状態が挙げられます。

    怠薬は論外ですが、それ以外の引き金が重ならないように、日常生活を無理のないパターンにしてください。 
    また、生理に関連して発作が起きやすい方は、ダイアモックスという薬が有効なことが多いので、
    試してみると良いでしょう。
    側頭葉から起きる複雑部分発作は、発作中は温痛覚などの体の感覚が分からなくなります。
    そのため、風呂場での溺死、交通事故など、きわめて危険性の高い発作といえます。

    など、日常生活には十分注意しましょう。

    なお,車の運転は夜間のみの発作など例外的な場合を除いては,2年以内に発作の既往が1度でもあると
    法律上運転は出来ません.
    また,2年間発作がない場合も,運転免許の更新や取得時に,医師の診断書が必要です.
    この診断書は,免許更新をする警察署や運転免許試験所で「交通安全委員会」から所定の診断書用紙をもらい受け
    これを担当の医師に持っていって記載してもらう必要があります.

  • てんかんの手術
  • 薬でてんかんが止まらないときは、外科的治療を検討するという選択肢があります。
    すべてのてんかんに対して手術が可能なわけではありませんが、最近の技術の進歩により、
    かなりのてんかん発作が手術可能となってきました。
    特に、側頭葉てんかん、転倒発作などは手術の効果が高いので知られています。
    従来は,側頭葉てんかんの手術後に記憶力の障害が出現する後遺症が恐れられていましたが,
    最近は,海馬多切術という新しい手術法で後遺症を予防することが可能になりました.
    全般的に,手術で後遺症が出現する割合はきわめて低く,手術そのものの安全性も
    脳腫瘍などの他の脳外科手術と比較しても,統計的にはるかに安全なデータが出ています.
    一般に脳外科手術というと、高額の金額が必要と思われるかもしれませんが、実際は高額療養費還付制度があって、
    食事代も含めて一ヶ月15万円以下で収まります。
    課税額の低い方は,さらに低額の治療費ですみます.
    しかし,てんかんの手術は、非常に専門的な手術なので、手術経験の多い医師を選択して下さい。
    また,薬物療法で発作がコントロールされている方は,特別な理由がないかぎりは,手術の対象とはなりません.

  • てんかんの法的支援
  • てんかんの薬物療法を外来で受けている患者さんは、「自立支援(精神通院)」という制度で、
    収入に応じた医療費の控除を受けることができます。
    保険で支払う外来の医療費が1割負担となり,かつ収入に応じた支払いの最高限度額が決まっていますので,
    経済的負担がかなり軽減されます.
    収入が極端に少ない方は,てんかん治療に関する費用は,薬代も含めて無料となることもあります.
    市区町村の役所に行き,「福祉課」(「障害福祉課」,「しょうがい福祉課」など)で「自立支援(精神通院)の診断書」をもらって下さい.
    これをかかりつけの医師の所に持って行き,診断書に必要事項を記入してもらいます.
    都内23区では,保健センターが事務を代行しています.
    診断書は自費で2000-5000円程度かかりますが,その後のメリットを考えると決して高くはありません.
    この診断書を提出すると,自立支援の受給者証が送付されてきますが,診断書を提出した時点で即座に有効となりますので,
    診断書を提出以降の外来診察費と薬代は共に1割となります.
    長期にわたって薬物療法が必要なてんかんの場合,診察代,検査費も含めて治療費が三分の一になることは非常な節約となります.
    ただし,てんかんと関係のない薬物,たとえば風邪薬などをついでに処方してもらう場合は,自立支援の対象外で
    これまで通り,このような薬に限っては3割負担となります.
    また,この制度を利用するには,指定自立支援医療機関にかかる必要があります

    発作が止まらず、就職も困難な方は、「精神障害者年金」の支給を受けることができます。
    重症度に応じて,級が決定されますが,1-2級の方は,級に応じて年間80万円前後の給付金が支給されますので,
    経済的にはかなり負担が軽減されます.
    しかし、これまで年金の支払いを怠っていた方には受給資格がありませんのでご注意下さい。
    年金の資格がない人でも、「精神障害者手帳」を請求することはできます。
    1級から3級までの等級があり、級に応じた免税、交通機関や公的施設の無料利用などいくつかの特典があります。
    また、ハローワークで障害者枠の就職を捜すこともできます。

    このように,てんかんに対する各種の法的援助制度がありますが,誰もこのことを教えてくれるわけではありません.
    ご自分で十分に研究されて,利用できる法的制度はなるべく活用することが大切です.



    文責  清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)




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