てんかんの手術(外科的治療)は、診断のための頭蓋内電極留置法と、治療のための各種の手術法に分けられます。
治療的手術法には、てんかん焦点や病巣を切り取ってしまう切除手術と、てんかん焦点からの連絡を遮断することによりてんかん発作を抑制する遮断手術とがあります。
てんかん焦点の診断には、発作症候、脳波、MRIなどの画像診断が三本柱となります。
これらの内科的検査で焦点診断がつかない場合、診断のための手術である頭蓋内電極留置の手術を行います。
頭皮脳波と、頭蓋内電極から記録される脳波を比較してみると、全く別物といって良いほど、頭蓋内電極からは鮮明で大きな波が記録されます。
頭蓋内電極による脳波記録の欠点は、電極が接触した部分のみしか診断できないことです。
電極のすぐ隣からスパイク波が出ていても、電極には全く記録されません。
大体1cm 以上離れてしまうと、ほとんど異常波を探知することは不可能となります。
従って、頭蓋内電極をどこに留置するかということが決定的な意味を持ってきます。頭蓋内電極を留置した場所が焦点からはずれていたら、どんなに長い期間、電極からの皮質脳波を記録しても正しい診断は得られないからです。
頭蓋内電極を留置するのは、内科的検査で診断がつかず、焦点の位置が不確かな場合がほとんどです。
しかし、焦点の位置が大体診断がついていないと、当てずっぽうで電極を入れても全く無意味である、という大きなジレンマがあるのです。
また、焦点の位置が大体診断がついていれば、わざわざ頭蓋内電極を留置しなくても、焦点が予測される部位を大きく開頭し、手術中の脳表から直接記録する皮質脳波に基づいて手術をする方がより効率が良いことになります。
なぜなら、皮質脳波であれば、電極を自由に移動して希望とする範囲をいくらでも記録することが可能だからです。
また、手術操作を加えた後も、処置の不十分なところがないか再度皮質脳波を記録して、焦点の未処理を防ぐことができるからです。
このように述べると、頭蓋内電極を留置する意味はほとんどないように思われるかもしれませんが、頭蓋内電極がどうしても必要な状況が存在するのです。
それは、成人の代表的な難治てんかんである側頭葉てんかんの場合、MRIで焦点の中心となる海馬に左右差がない場合です。
海馬に萎縮がない場合は、たとえ脳波異常が片方に見られても、その所見のみに基づいて手術をすることはできません。
なぜならば、海馬は側頭葉の非常に深いところに存在するので、そこから発生する脳波は頭皮上からでは完全にキャッチできないからです。
側頭葉てんかん以外では、大体の焦点部位が診断つけば、術中の皮質脳波に基づいて手術を行う方が、広範囲を確実に処理することができます。
しかし、内科的検査で焦点の位置が全く予測がつかない場合は、頭蓋内電極をどこに留置するかを決定することもできないし、術中皮質脳波に基づく手術も、開頭範囲を定めることができないので実施不可能です。
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MRIで比較的狭い範囲に限局した病巣があり、これを切除しててんかんの外科的治療を行う場合を病巣切除術といいます。
このような病巣としては、脳腫瘍、血管腫、皮質形成障害、瘢痕脳回などがあります。
通常の脳外科手術における脳腫瘍の切除と、てんかん外科における病巣切除術における腫瘍の切除とでは基本的に方法が異なります。
脳外科手術における腫瘍切除では、できるだけ周囲の脳組織をいためないように注意しつつ、腫瘍だけをきれいに切除するのが上手な手術とされます。
しかし、てんかん外科において同じ考え方で手術を行えば、てんかん発作を止めることはできません。
病巣切除術では、原因となっているてんかん焦点を切除するために、病巣だけでなく、周辺のてんかん発作を起こしている脳組織も切除する必用があります。
このような、てんかん発作を起こしている部位を、てんかん原性領域と呼びます。
てんかん原性領域は手術中に皮質脳波を記録することによって診断可能です。
病巣切除術の対象としては先天性腫瘍が代表的ですが、どういうわけか腫瘍は側頭葉にきわめて高率に発生します。
われわれの腫瘍例51例中、実に86%にあたる44例が側頭葉にできた腫瘍でした。
これに対して、血管腫は15例中8例 (53%)が側頭葉に発生しており、やはり側頭葉の発生頻度が高いですが、腫瘍ほど極端ではなく、前頭葉などにも比較的高率に見られます。
病巣切除術の場合、てんかん焦点はMRIで写し出された病巣を中心に存在するわけですから、開頭をする部位はすでに決まっています。しかし、病巣だけを切除しても、てんかん発作は止まるわけではありませんから、脳波所見を参考にして、病巣を中心に比較的広く開頭することが大切です。
病巣を切除する前に、脳表から皮質脳波を記録して、病巣切除前の脳波異常の状況を把握しておきます。これに対して、皮質形成障害は、通常きわめて強い異常波が出現しますので、脳波に基づいて異常範囲を確定することが可能です。
病巣切除が終了したら、再度脳波検査を施行します。脳波に異常が残るようでしたら、周辺のてんかん原性領域の切除が不十分なので、更に脳波が脳波異常が消失するまで切除を追加します。
周辺の領域に、言語野や運動野などの切除不可能な部位が関係している場合は、後述するMSTという機能温存的手術法を用います。
病巣切除術の場合、てんかんの責任病巣がMRIなどの画像でとらえられているので、てんかん焦点の部位診断を間違えることはありません。
ポイントは、病巣のみを切除するのではなく、周辺のてんかん原性領域を確実に処理することです。
このようにすれば、通常、病巣切除術は非常に良好な手術効果が期待できます。
われわれの施設のデータでは、側頭葉以外の病巣切除術で長期追跡した32例中、発作が完全に消失かきわめてまれになった例が97%を占めています。
また、側頭葉の腫瘍例では、95%で完全に発作が消失しており、病巣切除術は術中皮質脳波に基づいて手術を行えばきわめて良好な手術成績が得られます。
明らかに後遺症出現の危険性がある場所に病巣が存在する場合は、病巣切除術は不可能です。それ以外の場所では、病巣切除術後による後遺症はきわめてまれです。 病巣が安全な場所に存在しても、周辺のてんかん原性領域が切除不可能な場所に及んでいることもあります。このような場合は、MSTで対処すれば安全です。
皮質焦点切除術とは、MRIではてんかんの原因となる病巣が描出されず、脳波や発作型からてんかん焦点が診断された場合に行なう手術です。
焦点の部位によっては、運動野や言語野などの切除不可能な部位を含むこともありますので、皮質焦点切除術とMSTは同時に行われることは少なくありません。
一般的に、MRIで病巣が明確にとらえられた場合は、焦点の範囲も一定の範囲に限局していることが多いのですが、脳波のみで診断される焦点は、いわば細胞性の異常が散らばっているわけで、明確な境界に乏しく、手術成績もやや劣るのは否めません。
しかし、比較的狭い範囲で、発作型と脳波異常かぴったりと一致している場合は、手術により発作が完全消失するか大幅に改善することが期待できます。
大脳の表面には灰白質があり、その下に接して白質があります。
てんかん焦点は灰白質の細胞に存在するわけですから、皮質焦点切除術では灰白質のみを選択的に切除することになります。
灰白質の表面には、くも膜と軟膜があり、この二つの膜の間に脳の主要な血管が走っています。
従って、大脳皮質の切除に際しては、手術用顕微鏡下に、吸引管を用いて軟膜下の灰白質だけを吸い取っていきます。
てんかん焦点となっている灰白質は、正常の灰白質と異なって、比較的容易に軟膜から剥離できます。
灰白質はかなり深くまで延びていますので、取り残さないように深部まで灰白質を吸引していきます。
灰白質の山が吸い取られると、下から白質の白い山が現れてきます。
このように、表面の主要血管を傷つけないようににしながら、灰白質の灰色の山を白質の白い山に変えていく操作が、皮質焦点切除術です。
病巣切除術と比較して、皮質焦点切除術はかなり手術成績が不良です。
しかし、近年、手術中の皮質脳波が開発されてきて、成績も徐々に改善しつつあります。
われわれの施設のデータでは、術中皮質脳波を導入した1994年以降の成績を難治前頭葉てんかんで見てみますと、31例の皮質焦点切除中、発作消失58%、著明改善16%、有意改善19%、不変7%となっています。
この結果は、頭蓋内電極のみに基づいて手術を施行していた時代と比較すると、格段に成績が向上しています。
皮質焦点切除術の対象となる患者さんの場合、てんかん焦点が種をまいたように広範囲に分布していることが少なくありません。
そのために、一回の手術では処理しきれず、複数回の手術が必用なことがあります。
また、一箇所の異常波が消滅すると、術後に新たなてんかん波が別の場所に出現してくることもあります。
しかし、このような場合でも、根気よく手術を反復することにより、徐々に発作を減少させることも可能です。
手術の回数が増えることが後遺症につながることにはなりません。
一回一回の手術を安全に施行していけば、手術回数と後遺症とは直接関連はありません。
MSTという機能温存的手術が導入されて以来、切除手術により後遺症が出現する可能性はきわめて低くなりました。
切除が危険と思われる場合や、広範囲の焦点に対しては、切除の代わりにMSTを適用できるからです。
われわれのデータを見てみますと、150例の皮質焦点切除中に片麻痺の出現が1例、言語障害が1例で、脳の機能的障害の出現率は1.3%となります。
従って、皮質切除そのものによる脳の機能障害はほとんどゼロに近いと言えます。
最も手術に適した典型は、MRIで一側の海馬に萎縮が存在し、脳波で海馬の萎縮側に合致して異常波が認められる場合です。
通常の頭皮脳波で異常波がはっきりしなくても、睡眠時脳波の反復や、蝶形骨誘導脳波により異常波の出現部位が明確になることが少なくありません。
発作型、MRI、脳波の異常が、一側の側頭葉からの発作を明確に示している場合は、側頭葉切除術により非常に良好な手術効果が期待できます。
発作型は典型的でも、MRIで海馬の萎縮が存在しない場合や、脳波で左右差が不明確な場合は、より正確な診断のために頭蓋内電極を留置する手術が必要となります。
頭蓋内電極で診断される異常には三つのパターンがあります。
最も手術に適したパターンは、一側の側頭葉に限局して異常波が認められる場合です。
このような方も、きわめて良好な手術結果が期待できます。
二番目は、左右の側頭葉から異常波が出現するが、左右差がはっきりしている場合です。
このような脳波所見を示す場合は、異常波の強い側を手術するとかなりの成果が期待できます。
しかし、左右差の程度が少ないと、完全に発作が消失しない可能性があります。
両側の側頭葉から同じ強さの異常波が出現するパターンは側頭葉切除手術が不可能です。
たとえ発作は片方の側頭葉から起きても、非発作時の脳波が常に左右同程度の異常を示す場合も、やはり著明な手術効果は期待できません。
このような患者さんに対しては、海馬を切除しない、機能温存的手術法(海馬多切術)や迷走神経刺激療法などを検討することになります。
側頭葉てんかんの焦点の中心は大部分の場合が海馬です。
海馬は、側頭葉の深部に位置しています。
海馬の主要な役割は、記憶の入り口ですが、それ以外に原始的感情である情動にも関係しています。
怒りや不安などの感情との関連が強く、側頭葉てんかんの患者さんが、突然不安になったり、攻撃的になったりするのは、そのためです。
この側頭葉の深部にある海馬を安全に切除することが側頭葉てんかんの手術の最大の眼目になります。
側頭葉の表面は言葉と視野に関係しています。
側頭葉で言語機能に関係があるのは言語優位半球の側にある側頭葉だけです。
通常は言語機能は左側の大脳半球にあります。
しかし、乳幼児期に左脳に広範囲に障害を受けると右脳が言語優位半球になっている場合もあります。
ここでは、左脳が言語優位半球として話を進めましょう。
側頭葉切除術は1950年代に完成されました。
この古典的切除法は、左側は側頭葉先端から4-4.5 cm, 右側は5-7 cm を切除して海馬に到達する方法です。
その後、手術用顕微鏡が導入され、より狭い切除範囲で海馬に到達する方法がいろいろと開発されてきました。
ここでは、われわれが通常行っている側頭葉先端外側からアプローチする方法につい説明しましょう。
この方法は解剖学的位置関係が把握しやすく、しかも、他の選択的切除法と同様に言語障害や視野障害の出現を最小限度に抑えることが可能です。
まず側頭葉先端の外側を切除して、内側に到達する入り口を作ります。
切除の幅は、左側で先端から2.5-3 cm, 右側で3-4 cm 位後方までにとどめます。
この範囲であれば、術後の言語障害や視野障害の心配がありません。
ていねいに止血を繰り返しながら、外側の皮質を切除します。
次に、少しずつ白質を吸引しなから削っていきますと、脳室(側頭葉下角)が開放され、髄液が噴出してきます。
下角の床には純白に輝く海馬が見え、天井にはアーモンド状の灰色を帯びた扁桃体が確認されます。
次に、海馬、扁桃体から皮質脳波を記録し、てんかん波の有無を最終的に確認します。
非常にまれですが、海馬から異常波が記録されず、側頭葉の外側や底面のみがてんかん焦点となっている場合もあります。
そのような場合は海馬を切除しないこともあります。
海馬の頭部は、病理学的検査のために一塊として切り取ります。
海馬に出入りする細い血管をていねいに切断し、周囲の脳やくも膜から海馬をきれいに取り出すのはかなりの熟練を要します。
海馬の先端の切除が終了したら、海馬の後端は超音波メスを用いて吸い取ってしまいます。
てんかん焦点の大半は海馬頭に存在しますが、時に後方まで焦点が延びていることもあります。
従って、なるべく後方まで海馬を切除することが良好な手術成績につながります。
海馬を含めた側頭葉内側構造の切除が終了したら、側頭葉の切断端から皮質脳波を記録します。
断端にスパイク波が見られる場合は皮質切除またはMSTの追加を行います。
左側では言語機能が問題となりますので、MSTによる処置が主体となります。
右側では、言語機能は問題となりませんが、余り後方まで切除すると視野障害が関係してきますので、切除とMSTを組み合わせて、視野障害を最小限に抑えます。
側頭葉切除術の手術成績はきわめて良好で、古典的側頭葉切除術でも選択的扁桃体海馬切除術でも、約70-80%で発作の完全消失が期待できます。
発作が完全に消失しなかった残りの20-30%でも、大半が発作頻度の減少がみられます。
発作が残存する原因としては、
などいろんな原因が考えられます。
私共の施設では、側頭葉切除術を施行した後に、術中皮質脳波を追加して、他の部位にてんかん原性領域が残存していないか検査をしています。
もし、皮質脳波で異常波が見られた場合は、皮質切除やMSTを追加して、完全を期しています。
約一年間経過を観察して、発作が残存し、抗てんかん薬の調整によっても消失しない場合は、再手術の可能性を視野に入れて再度精密検査を行う必要があります。
海馬の後端や側頭葉の外側に焦点が残る場合は、追加手術により発作が消失する可能性は十分にあります。
また、前頭葉に新たに焦点が確認され、複雑部分発作にかわって全身けいれんが起きる場合は、前頭葉の焦点切除で遺残発作の改善が期待できます。
一番厄介なのは、両側性に側頭葉に焦点があり、一側の側頭葉切除後、残りの側頭葉から発作が起きる場合です。
このような場合は、多くは術前から両側性焦点の診断がなされていることが多いので、われわれの開発した海馬を切除しない記憶機能温存的手術を最初から計画し、必要に応じては両側側頭葉の手術を施行することになりますが、一側焦点と比較すると手術成績は良くありません。
手術により発作が完全に消失した場合、抗てんかん薬を中止できるかどうかの問題があります。
通常は、手術後一年間は服薬を続けながら観察を行い、その間、前兆を含めて完全に発作が見られないようでしたら、徐々に服薬量を減少していきます。
減薬の過程で、前兆が出現したり、軽い発作が見られるようでしたら、少量の抗てんかん薬を継続する必要があります。
一度完全に消失したてんかん発作が再発しないかという問題があります。
通常は、2年間発作が消失していれば、それ以後に再発してくる可能性は5%以下ときわめて低くなります。
それでも、まれに、数年経過して発作が再発する例が報告されています。
しかし、このような再発例の発作は、多くのの場合、抗てんかん薬の調整により発作をコントロールできる場合がほとんどのようです。
側頭葉切除術後の最大の問題は、左側手術後の記銘力の低下です。
記銘力低下が出現しやすいのは、術前の状態からある程度推測ができます。
これらの条件は、術後の記銘力低下につながる可能性が高いことが知られています。
逆に、手術する側の海馬の萎縮が著明、てんかん発作の発症が乳幼児期の早期、手術年齢が若い、術前の知的レベルが余り高くない、このような患者さんの場合は、手術後に記憶障害が出現する可能性はきわめて低いと言えます。
手術後に、言語性記銘力の低下が出現すると、新たな知識や語学などの学習能力が低下します。
また、言葉で複雑なことを言われると理解するのが困難になることがあります。
従って、一度記憶の問題が出現すると、これまでと全く異なる事務職に就いたり,新たに資格試験を受けたりするのは難しくなります。
最近の報告では、10年以上の長期追跡でも、いったん低下した記憶力の障害が回復するのは困難なようです。
従って、手術前の検査結果から、手術後の記憶障害の可能性がある場合は、私どもの開発した、記憶を温存する側頭葉手術を選択するのが安全です。
手術の効果は、通常の側頭葉切除術と比較しても遜色はありません。
側頭葉切除術により、反対側の上四分の一の視野が欠けることがあります。
しかし、この視野障害は、眼科的検査で始めて分かるくらいで、本人は自覚しないのが通常です。
従って、日常生活にも全く支障はありません。
それ以外の合併症はきわめてまれですが、側頭葉切除術は脳の深部まで手術をするので、半身麻痺、眼球運動障害などが出現する可能性がゼロとは言い切れません。
MSTは1989年にモレル という神経内科医により開発されたきわめて画期的な手術法です。
なぜ画期的であるかと言いますと、それまでは手術が不可能であった運動野、言語野などの切除不可能な場所にてんかん焦点があっても、MSTを用いれば外科的治療が可能になったからです。
MSTの手術対象は、モレルがこの方法を開発した目的のごとく、運動野や言語野などの、切除手術により重大な機能障害が予想される場所に焦点が存在する場合です。
MST手術のもうひとつの重要な対象として、焦点が広範囲に分布している場合です。
このような広範囲のてんかん焦点では、正常な脳細胞とてんかん性能細胞が混在して存在しますので、これを全部切除することは不可能です。
MSTにより、正常細胞の機能を保ちつつ、てんかん焦点を無力化することが必用になってきます。
このように、MSTは単に運動野や言語野などの狭い範囲のてんかん手術を可能にしただけでなく、広範囲に分散するてんかん焦点に対する外科的治療も可能にした画期的な治療法であることがご理解いただけると思います。
MSTの手術には、術中皮質脳波が不可欠です。
皮質脳波とは、脳の表面から直接記録する脳波のことで、通常の脳波と比較すると数倍から10倍近い、振幅の大きな脳波が記録できます。
まず、発作症状や頭皮脳波の所見から、てんかん焦点が予想される範囲を中心に大きく開頭します。
脳の表面が出現したら、皮質脳波を記録します。
単に見えている範囲だけでなく、脳の底面や側面などを含めて、三次元的に徹底的に調べあげます。
このようにして、脳波の異常な範囲を決定します。手術中に電極の位置を写真に撮るとともに、スパイクの分布をスケッチしておきます。
術中脳波の所見に基づいて、まず安全に切除できる部位を処理し終わったら、いよいよMSTの段階となります。
MSTには、専用の特殊なフックを使用します。
このフックを用いて、脳表面の血管を傷つけないように、 5 mm 間隔で4 mm の深さで、脳の灰白質を切断していきます。
MSTの後は、微細な出血線が残るため、虎の縞のような後が残ります。
このようにして、一つの脳回が、すべて5 mm 間隔の縞模様で覆われれば、その脳回に対する処置は終了します。
MSTの範囲が広い場合は、たくさんの脳回に同様な操作を反復していきます。
すべての操作が終了したら、再度皮質脳波を記録します。
まだ、てんかん性異常波が残っている部位があったら、MSTが十分に行われているか点検し、不十分と判断したら、さらにMSTを追加します。
皮質脳波を反復して、最終的に納得いく結果が得られたら、手術は終了です。
(MSTの手術法については、こちらもご参照下さい)
私たちは、これまで230例の患者さんにMSTを施行しました。
その内訳は、切除手術の後に、補助的にMSTを追加したのが、51%と約半数、切除手術も施行したが、MSTが主要な手術操作であった場合が33%と約1/3,全くMST単独で処置したのが16%でした。
このように見てくると、MSTは、ほかの手術操作と組み合わせて用いられることの方が断然多いことがご理解頂けるかと思います。
つまり、安全な部位は切除して、残りをMSTにしたり、病巣を切除した周辺の異常脳波部位に対してMSTを加えるなど、いろいろな応用ができます。
MSTの効果については、多くの研究者の報告がありますが、どの報告もMSTの効果を認めており、MSTが全く無効であるという報告は見あたりません。
私どもの経験では、MSTの有効性は、てんかん焦点の性質にかなり作用されるように思われます。
すなわち、皮質形成障害などのように、脳の正常構造が乱れており、灰白質だけでなく、白質の中にまで異常な神経細胞が迷入しているような場合は、MSTの効果が乏しい場合もあります。
これに対して、てんかん焦点の原因が、過去の脳の病気、たとえば、出産時の脳の低酸素症、脳炎、髄膜炎、頭部外傷などの脳の過去の障害に起因する場合は、MSTの有効性が高いようです。
このように、MSTはきわめて便利な手段で、てんかん手術のいろんな場面で活用できます。
その有効性は、切除法と比較しても、決して遜色のあるものでありません。
しかし、皮質形成障害のような特異な病態が背景にあると、時に有効性を欠くこともあります。
MSTが通常に行われれば、運動野でも言語野でも、後遺症が残ることはありません。
MSTを加えた直後は、一時的に麻痺が出現したり、言語障害が見られたりすることがありますが、切除の場合と比較すると、きわめてすみやかに快復します。
MSTで後遺症が出現する場合は、MSTの操作により血管が損傷され、血腫を形成する場合です。
MSTの直後には、脳表面から異常がないように見えても、深部の血管が破綻していると、手術後にじわじわと血腫が形成され、脳組織に悪影響を与えることがあります。
出血の場所が、運動野や言語野の直下ですと、永久的な後遺症が出現することもあります。
運動野と言語野を比較すると、永久的な後遺症の頻度としては、言語野の方が多いようです。
言語野などに焦点がある場合は、いわゆる播種性焦点と呼ばれる、広範囲に分布するタイプの焦点が多く、MSTの範囲も広範囲に及ぶことが、比較的障害が出現しやすい原因かもしれません。
しかしながら、全体の手術数の中で、MSTによる後遺症か出現する割合は数%以下であり、それほど頻度の高いものではありません。
しかも、後遺症が出現した場合でも、完全な運動麻痺とか、強い失語症などが残る危険性は比較的少なく、従来の切除手術と比較すれば、格段に安全性の高い手術法といえるでしょう。
脳梁とは左右の大脳半球を結ぶ最も大きな連絡線維です。
脳梁は、左右半球の大脳皮質を連絡しており、てんかん波の主要な通り道となります。
てんかん焦点から発したてんかん波の伝播には三つの経路があります。
一つは脳梁を介して反対側の半球に伝わる経路。
二番目は脳の深い部分(皮質下)を通って反対側に伝播する経路。
三番目は、反対側に波及しないで、そのまま下降して末梢に伝わる経路です。
脳梁を介する伝播経路は、非常に速いてんかん波が急速に反対側に波及するときに使われます。
広いてんかん焦点、あるいは広範囲に分散した焦点が、脳梁を介して急激に共鳴します。
この左右のてんかん波の共鳴を同期化と呼びます。
すなわち、脳梁は左右のてんかん波の同期化に密接に関連しています。
左右のてんかん波が、急激に爆発的な勢いで同期化すると、左右大脳半球が一瞬のうちにてんかん波に巻き込まれてしまい、患者は突然激しく転倒します。
転倒発作の特徴は、瞬間的に激しく転倒し、そのために患者は体の防御が不可能で、生傷が絶えないことです。
転倒発作は比較的小児に多く、脳波では左右同期性の異常波が高率に見られます。
左右同期性異常波とは、左右のてんかん波が非常に似た形をして、あたかも共鳴したかのように左右同形の波形が出現します。
左右同期性異常波は脳の機能に深刻な影響を及ぼします。
小児期にこの異常波が出現すると、大脳機能の発達が停止したり、後退したりします。
学習能力が低下し、それまでに習得した言葉の数が減少したり、運動機能が低下して歩くのが不安定になったりします。
また、集中力を失い、落ち着きのない多動性を示すこともあります。
患者さんのなかには、激しい転倒発作や脱力発作を反復しているにもかかわらず、脳波上では左右同期性てんかん波が見られない方もいます。
このような場合でも、発作型が一致していれば、脳梁離断術の効果は十分期待できます。
脳梁離断術が有効な発作型のも一つのタイプは強直性全身けいれんです。
全身けいれんには三つの型があり、一つは強直性、もうひとつは間代性、三番目は強直間代性の混合型です。
強直性けいれんとは四肢を強く進展したり屈曲したりして、筋肉を強く緊張させる非常に激しい全身けいれんです。
間代性全身けいれんは最もふつうの全身けいれんで、患者は体をガタガタと震わせます。
はじめに強直性の要素を呈し、その後に間代性に移行する強直間代性全身けいれんも少なくありません。
脳梁離断術は、全身けいれんの程度を軽くして、回復を早めるなどの効果があります。
全身けいれんの後は眠り込んでいたのが、脳梁離断術後は発作の持続時間が短くなり、眠り込むことがなく比較的すぐに意識が回復するなどの効果が見られます。
このように、脳梁離断術の手術対象は発作型に基づいて決定されると考えてよいでしょう。
脳波もきわめて参考になり、左右同期性てんかん波が見られれば非常に手術効果が期待できます。
しかし、このような異常波が見られなくても、典型的な転倒発作であれば手術効果は期待できます。
手術は、一側の前頭葉からアプローチします。
左右の大脳半球の間には硬膜の隔壁があり、これを大脳鎌 (だいのうがま)と呼びます。
大脳鎌の上縁には、上矢状洞 (じょうしじょうどう)という太い静脈の管が走っており、左右の大脳半球の大きな静脈がこの上矢状洞に注いでいます。
脳表面から橋渡しするように静脈が上矢状洞に人注ぐので、上矢状洞に流入する静脈は橋静脈(きょうじょうみゃく)とよばれます。
脳梁に達するためには、前頭葉と大脳鎌の間を分けて入りますので、時に橋静脈が進路を妨げることがあります。
そのため、手術前に橋静脈の状態をMRIで撮影し、左右どちらからアプローチするかを決定します。
手術用顕微鏡下に前頭葉と大脳鎌の間を少しずつ分けて進んでいきます。
この時、進路が脳梁に垂直に、最短距離で脳梁に達するように操作を進めます。
深部では、左右の脳が直接接触していますが、これを分けていくと、純白に輝く脳梁の表面がくっきりと視野にとらえられます。
脳梁離断とは、吸引管を使って脳梁の中央の組織を吸い取って切断することを意味します。
少しずつ脳梁表面を吸引していくと、脳梁の中央底面に存在する透明中隔板 (とうめいちゅうかくばん)に到達します。
透明中隔板とは、左右の脳室を分けている境界で、左右の薄い壁から構成されています。
透明中隔板が確認されたら、これをたどりつつ、前方から後方に向けて、脳梁を切断していきます。
続いて、膝の下の脳梁吻をできるだけ下方まで分断します。
脳梁離断術は、通常は小児では全離断、成人では脳波異常の分布に応じて、前三分の二、前二分の一などの部分離断を施行します。
小児では、ほとんどの場合全離断が行われるのは、小児はてんかん波が広い範囲に伝播しやすいことと関係しています。
また、小児では、全離断で後遺症が出ることはなく、全離断の方が、明らかに手術効果が高いからです。
成人でもてんかん波が脳全体に及んでいるときは、全離断を行わざるをえません。
また、前方の部分離断で経過を見て、手術効果が不十分な場合は半年から一年後に後方の離断を追加する二期的手術法もあります。
脳梁離断術の転倒発作に対する手術効果は非常に劇的です。
全離断が施行された場合、90%で転倒発作は消失します。
これに対して、部分離断の場合は、手術前の脳波が比較的前頭葉を中心に脳前半に限局している患者さんを選んで行われるのですが、
それでも手術効果は70%以下に低下します。
これは、発作時の脳波の広がりが、手術前の非発作時の脳波異常の分布よりは広範囲に波及するためと考えられます。
全身けいれんは完全に消失することはまれで、大体は残存すると考えた方がよいでしょう。
しかし、発作の強さや持続時間はかなりの程度に改善します。
発作後のもうろう状態や発作後眠り込んでしまう状態がなくなったと言われる方が非常にたくさんいます。
脳梁離断術はあくまでも脳梁を介するてんかん波の伝播を遮断するだけの手術ですから、すべての発作が消失するのは期待できません。
おおまかにまとめれば、転倒発作や脱力発作には著明な効果が期待できるが、その他の全般性発作は程度が軽くなるくらい、部分発作に対してはほとんど効果がないか、場合によっては全般発作が減少した分だけ部分発作が増加する場合もあるということになります。
また、脳梁離断術の場合はてんかんの病巣はそのまま残っていますので、手術後の抗てんかん薬の服用は、量と内容とも余り変えないで継続する必要があります。
全脳梁離断術後、一端消失していた転倒発作が再発することはきわめてまれです。
手術効果が安定するのには最低半年の観察が必要ですが、半年経過すればほぼその効果は持続すると考えてよいでしょう。
部分的脳梁離断術の場合は、術後一端消失した発作が再発することとは珍しくありません。
この場合は、後半の離断を追加する必要があります。
後半の離断を追加して、結果的に全離断となれば、その後に転倒発作が再発する可能性はきわめて低くなります。
脳梁離断術年3以上経過した患者さんの家族にアンケートをとったことがあります。
年齢を17歳以下の小児群、18歳以上の成人群と二つに分けてアンケート結果を分析しました。
その結果、小児群30例では、言語機能、社会性、集中力の増大などのQOL(生活の質)が改善したと答えたのが77%、不変17%、悪化6%でした。
これに対して、成人群では改善41%、不変32%、悪化27%でした。
悪化の内容は、意欲の低下、話し方が少し不明瞭となった、など比較的漠然としたものが主体で、明らかな神経脱落症状と思われるものは見られませんでした。
QOLの変化と発作に対する手術効果を合わせて、全般的な脳梁離断術に対する満足度を質問した項目では、小児群では1人を除いた29人(97%)が手術に対する満足度を示しました。
これに対して、成人の手術に対する満足度はかなり低く、満足62%、不満足38%という結果でした。
以上の結果から、小児では脳梁離断術により集中力の増大、言葉数の増加、歩行の安定など精神運動面の改善が8割で観察され、手術に対する満足度がきわめて高かったにもかかわらず、成人では対照的に、大脳機能の改善も4割程度で、満足度が6割程度と比較的低率であることが分かりました。
従って、脳梁離断術は小児において大脳機能の改善程度が大きいと言えます。
しかし、小児でも、すでに大脳機能があまりに荒廃している場合は、脳梁離断術により大脳機能の改善は期待できなくなります。
過去、現在を含めて、言語機能を持つところまで脳の発達が到達したかが、一つの目安となるようです。
半球離断術の手術対象は、一側の大脳半球全体が機能を失い、その広い範囲からてんかん性異常波が出現している場合です。
特に、言語機能と運動機能が反対側の健側半球にあることを確認するのが大切です。
手術の対象は大きく分けると、大脳皮質形成障害と大脳半球萎縮型に分けられます。
前者の形成障害には、片側巨脳症、一側半球全体に及ぶ限局性皮質異形成などがあります。
一側大脳半球が広範囲に萎縮する病気としては、乳児片麻痺、HHE症候群(片側けいれん片麻痺てんかん症候群)、スタージ・ウェーバ症候群、ラスムッセン脳炎、脳血管障害、頭部外傷後遺症などがあげられます。
いずれのばあいも、てんかん性異常波が病気で侵された側の大脳半球に一致して出現していることが手術の前提条件となります。
昔は、患側の大脳半球を文字通り前部切除する、半球切除術が行われていました。
しかし、この方法は、手術そのものの侵襲が大きい上に、手術後に頭蓋内に大きな空洞が形成され、これが後にいろんな障害の原因となります。
そのため、最近では、大脳半球の切除を最小限にとどめ、大脳半球を連絡する神経線維だけを切断する方法が用いられるようになりました。
この手術法を最初に考案したのはフランスの脳外科医デラランドで、1992年のことです。
彼は「半球切断術」という言葉を使用しましたが、半球切除術とまぎらわしいので、私どもは「半球離断術」という言葉を用いています。
一側の半球の神経連絡を完全に遮断するには、基本的には四種類の連絡を遮断します。
ひとつは左右の大脳半球を連絡する脳梁です。
次に、大脳皮質から脳幹、脊髄へと下降していく線維です。この線維は大脳皮質から次第に一箇所に集中し、内包と呼ばれる線維束になります。
側頭葉の内側にある海馬、扁桃体などは側頭葉てんかんの主役を演じるのでよく知られていますが、てんかん発作の発生に密接に関連しています。この側頭葉内側構造を完全に分離するのが三番目の遮断です。
最後に、前頭葉から脳の深部に走る水平線維があります。
これを切断すると、一側大脳半球を連絡している神経線維がすべて遮断されることになります。
半球離断術の手術効果は、ひとえに反対側の健側半球にてんかん焦点が存在しないかにかかっています。
てんかん焦点が患側半球に限局して存在するときは、劇的に発作は消失し、抗てんかん薬の服用も不要となります。
一般に、患側半球が萎縮するタイプの半球性疾患の方が手術成績がよいようです。
その代表的疾患として、スタージ・ウェーバー症候群が知られています。
大脳皮質形成障害の代表として、限局性皮質形成異常と片側巨脳症がありますが、片側巨脳症が最も手術成績が不良です。
手術成績を不良にする最大の原因は、しばしば対側の健康と思われる半球にも形成異常が潜んでいるからです。
術前の検査で、脳波上てんかん性異常波が健側半球に独立して見られるときは、要注意のサインです。
健側半球の異常波の程度が軽い場合は、半球離断術により発作が完全に消失する可能性もあります。しかし、健側半球の異常波がかなり目立つ場合は、手術後に発作が残存する可能性が高くなります。
中には、画像上は片側巨脳症を示していても、脳波では両側半球から同じほど強い異常波が出現する場合もあります。
このような例は、半球離断術そのものの適応すら乏しく、手術を断念する場合も考えられます。
発作の消失率は、半球萎縮群で約80%、片側巨脳症では50%程度となります。
半球離断術は非常に大きな手術で、しかも対象が乳幼児が多いことから、手術に対する危険性も、他の手術法に比較すると高いと言えます。
片側巨脳症の場合は異常な巨大静脈が存在したり、脳血管が未成熟で異常に出血しやすいことがあるために、術中に大量の出血をきたすことがあります。
いずれにせよ、乳幼児の場合はわずかな出血量でも、小さな体にとっては大量出血に相当し、ほとんどの場合手術中の輸血が必要となります。
手術そのものと同等なくらいに重要なのが手術後の管理です。
血液の成分には、赤血球や白血球などの血球成分以外に、タンパク質、ナトリウム、カリウムなどの電解質などが含まれています。
これらの成分が少しでもバランスを失うと、脳に悪影響を与え脳浮腫などにつながります。
そのため、手術後は、毎日体重測定をして体の水分量を一定に保つと共に、血液検査を反復し、貧血の有無や電解質の値をこまめにチェックする必要があります。
また、乳幼児の脳はきわめて未成熟なために、ビタミン、ミネラルなどの補給も十分に行う必要があります。
成人と比較して体の抵抗力も低いので、肺炎などの感染の危険性も考えなければなりません。
このように、体液のバランスを保ち、感染に注意しつつ、ICU(集中治療室)で細やかな術後管理を継続します。
術後2週間が無事に経過すれば一安心で、一般病棟に戻ることができます。
また、術後の急性期が無事に経過しても、その後半年後ごとに脳波やMRI、発育状態を定期的にチェックしていく必要があります。
慢性的な水頭症や髄液貯留が発生すると、脳の発育が遅れることがあるからです。
半球離断術後の精神運動面の発育は、ひとえに発作が完全に消失したか否かに左右されます。
発作が完全に消失し、患側脳から発生していたてんかん性異常波の悪影響が消失すると、残された健側半球は、左右の両側半球を合わせた2人分の活躍を始めます。
MRIの画像検査でも、健側半球は次第にふくらんでくると共に、精神運動面でもめざましい発達を示します。
乳幼児期の早期に手術が施行されれば、歩行、言語機能なども獲得し、正常に近い発達を示すこともあります。
手術直後は上肢を主体に半身麻痺が出現しますが、リハビリテーションにより次第に麻痺は改善していきます。
特に、下肢の機能は一側大脳半球から両側支配されていますので、訓練すれば歩行は可能になります。
場合によっては、足関節を固定する靴や装具が必要となります。
上肢の機能は、下肢機能と比較すると回復が悪く、程度の差はあれ、指や手首の運動機能障害が残る場合が多いようです。
しかし、術後の運動機能は、健側半球の代償能力、手術時期、術後のリハビリテーションの程度などいろんな要素により左右されます。
乳児片麻痺やHHE症候群、あるいは半球萎縮性疾患などの場合は、乳幼児期を過ぎてある程度年齢がいっており、片麻痺も完成している患者さんが少なくありません。
このような場合は、両側の運動機能は健側半球で行われているので、半球離断術により麻痺が悪化することはほとんどありません。
むしろ、多くの場合、患側半球からの健側脳に対する悪影響が消えるので、大脳機能が改善し、運動が円滑になると共に、情緒的にも安定することが多いようです。