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側頭葉てんかん

側頭葉てんかんの症状と治療

最近話題になっているてんかんが原因の交通事故ですが、ほとんどの場合が側頭葉てんかんが原因になっています。
側頭葉てんかんは、本人が自覚のないままに無意識に行動する自動症が特徴です。
しかも、発作の前兆がない場合、患者さん本人に発作があった自覚が持てません。
このことが、自分の発作を過小評価して、気軽に運転することにつながっているのです。
側頭葉てんかんは高齢者のてんかんの大部分を占めており、てんかんの中で最も看過できない発作型と言えます
しかも、側頭葉てんかんは、成人の代表的な難治てんかんのひとつです。
難治てんかんとは、薬物療法で発作が止まらないてんかんを意味します。
側頭葉てんかんの原因としては、仮死分娩、脳炎・髄膜炎の後遺症、はしか、突発性発疹、先天性脳腫瘍、大脳皮質の形成障害、脳血管障害、頭部外傷など、非常に多岐にわたっています。
てんかんというと遺伝を考える人がいますが、側頭葉てんかんで遺伝性のものは皆無に近いといえます。
側頭葉てんかんは、特異な発作症状以外に、記憶障害、性格変化、精神症状など、他のてんかん発作に見られないさまざまな随伴症状があります。
また、薬が効きにくい代わりに、外科的治療にきわめてよく反応するという利点もあります。
以下の項目にわけて、側頭葉てんかんを解説しました。
現在この病気を持っている患者さんが、1人でも多くこの最も危険な発作から解放されることをお祈りします。


目次
  1. 側頭葉てんかんの発作症状
  2. 側頭葉てんかんと記憶
  3. 側頭葉てんかんの随伴症状
  4. (薬物療法についてはこちらを参照してください。)

  1. 側頭葉てんかんの発作症状
    側頭葉てんかんの発作症状は、複雑部分発作とよばれます。
    この名前のとおり、非常に特異な発作症状で、なれていない人にはてんかんとは思えないかも知れません。
    実際、患者さんの中には、医者から“ヒステリー”とか、“ノイローゼ”などの、誤った診断を受けた方もおられます。

    最も一般的なタイプは、まず上腹部の不快感などの前兆があります。
    前兆には、フラーっと倒れそうな感じがするめまい感、高音性の耳鳴りなどもあります。
    また眼前の景色が懐かしくかんじられるデジャビュや、頭の中で同じような景色や音、声などが浮かぶこともあります。
    この前兆だけで終わって、発作に発展しないこともあります。
    また、発作に発展しても、前兆までしか記憶していないのが通例です。
    前兆から発作に移行する場合は、虚空を凝視し、体が硬直、顔がチアノーゼで青くなる場合が多く見られます。
    口をペチャペチャさせたり、舌をツパッツパッと鳴らしたりする自動症が見られます。
    「はい、はい」などの、その場と関係のない言葉を反復することもあります。
    中には、歩き出したりする徘徊自動症というのもあります。
    発作の持続時間は、だいたい1-2分です。
    その後、5-6分くらいもうろうとした状態が続いて、回復します。
    患者さんは、発作の前兆ともうろう状態の部分は記憶していますが、発作中のことはまったく覚えていません。
    名前を呼ぶと、返事をすることがあるので、周囲の人は意識があるように錯覚しますが、本人は記憶していません。
    さらに、発作の間は、熱い、冷たい、痛いなどの感覚がありません。
    このため、発作中に熱湯が体にかかっても、発作が終わるまでは気づきません。
    家庭の主婦が、家事の最中に発作を起こして、大やけどをすることもあります。
    最も怖いのは、入浴中に発作が起きて、風呂の湯を発作中飲み続けて、溺死などの悲劇につながることです。
    このように、あまり目立たない発作ですが、全身けいれんなどよりも、はるかに生命に対する危険性が高いといえます。
    さらに、やっかいなことは、発作の前兆がない患者さんも少なくありません。
    前兆がないと、発作があったことすら自覚できず、危険性の高い発作にもかかわらず患者さんの病気に対する自覚が低いこともこの病気の治療が困難な原因の一つとなります。


  2. 側頭葉てんかんと記憶
    側頭葉てんかんの焦点の首座は海馬にあります。
    海馬は記憶の出し入れに関係した器官です。
    記憶には、はるか過去の記憶と、最近の記憶と、直前の出来事の記憶の3種類があります。
    これらは、遠隔記憶、短期記憶、瞬時記憶などとよばれています。
    側頭葉てんかんで最も障害されやすいのは、短期記憶です。
    2-3日前のことや、数時間前の出来事が忘れやすい傾向がみられます。
    このような記憶を留める大脳の機能を記銘力と呼びます。

    てんかん焦点が右にあるか左にあるかによっても、記銘力障害のパターンが異なってきます。
    左側の脳は、通常言語機能を営んでいるので、言語の優位半球と呼ばれることはご存じと思います。
    このために、左の海馬の障害では、言語性記銘力の低下が生じます。
    人の名前を忘れたり、言葉に関連する記憶が障害されやすくなります。
    少しややこしい話が理解できなくなったり、抽象的な話をされるとついて行けません。
    また、自分で話す場合でも、適切な言葉が浮かんでこないので苦労することがあります。
    これに対して、右側の海馬に焦点がある場合は、人の名前などは比較的記憶していますが、出来事、地理、人の顔などの記憶障害が目立ってきます。
    左側の場合は、言語性記銘力以外にも、右と同様な視覚性記銘力も同時に低下します。
    つまり、焦点が左側に存在する方が、記憶障害の程度が強いと考えてもよいでしょう。
    両側に焦点が存在する場合も、左側の焦点と同様に、言語性、視覚性の両方の記銘力が低下し、その程度はさらに強い傾向が認められます。

    しかし、側頭葉てんかんの全例で記憶の障害が生じるわけではありません。
    てんかん発作の原因が仮死分娩などの乳幼児期の出来事に関連していると、片側の海馬の機能が完全に脱落していても、反対側が代償していて、記憶障害がまったくない方もいます


  3. 側頭葉てんかんの随伴症状
    側頭葉てんかんが他のてんかんと異なっている点は、発作以外にいろんな随伴症状を伴うことです。
    記憶障害もその一つですが、それ以外に、性格変化、精神症状などを伴うこともあります。


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文責 清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)


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