てんかんの原因


てんかんの原因は、過去の脳の傷、大脳の形成障害、先天性脳腫瘍などに分けられます。
以下、この三つについて解説します。


  1. 過去の脳の傷

  2.  代表的なものは出産時の脳障害です。  
    側頭葉てんかんの原因の大半は、仮死分娩が関連しています。
    仮死分娩の症状を示した後、赤ちゃんが比較的順調に育ったように見えても、小学生や思春期頃になっててんかん発作が起きてくることは珍しくありません。  
    仮死分娩に次いで脳の古傷の原因となるのは、髄膜炎や脳炎など、脳に直接、細菌やウィルスが感染する場合です。  
    はしか、突発性発疹による高熱が数日続き、これが脳に傷を残すこともあります。  
    日本脳炎などの予防接種の後に高熱を出し、脳炎の症状を呈し、強い後遺症とともに、てんかん発作が残ることもあります。  
    乳幼児期に原因不明の高熱を出し、体半分の手足のけいれんを反復し、後に半身麻痺と麻痺した手足のけいれんを残すこともあります。  
    小児期に突然脳の大血管が閉塞して、脳の広範囲が脳梗塞に陥ったりすることがまれに生じます。
    このような脳血管障害が後にてんかんを起こしてくることもあります。

      

  3. 大脳の形成障害
  4.   お母さんの子宮の中で、脳が活発に形成されるのは、胎生期の8週から16週にかけてです。
    大脳の形成障害の中で、最も多いタイプは限局性皮質異形成と呼ばれます。
    大脳の一定範囲の皮質が、十分に完成していない状態です。
    その部分の大脳皮質の細胞構築は乱れ、異常な形をした神経細胞が入り乱れています。
    このような皮質形成障害は、異常な細胞自身がてんかん波を出す特徴があります。
    限局性皮質異形成以外にも、種々のタイプの形成障害があります。
     
     最初に神経細胞が作られる過程で大きな異常が生じると、一側の大脳半球全体が異常な神経細胞で構成されて巨大化する、片側巨脳症と呼ばれる病気が生じます。  
    神経細胞の移動がスムーズに行かずに、途中で頓挫してしまい、本来あるべきでない場所に神経細胞の塊が残ることがあります。
    これは異所性灰白質と呼ばれます。  
    異所性とは本来存在しない場所に,別の場所の組織が存在することです。
    大脳皮質の神経細胞の層はその色から灰白質と呼ばれ、これが脳表面より深い白質の中に塊として残ってしまうわけです。  
    最後の神経細胞の仕上げの段階でも、いろいろな異常が発生します。
    大脳皮質は山と谷が交互に連なったリボンのような形をしています。
    一つ一つのリボンの高まりが異常に大きくなった場合を厚脳回症、逆に非常に小さなリボンの高まりが密集する場合を多小脳回症といいます。  
    厚脳回症の程度が進むと、脳表面全体がつるりとした滑脳症と呼ばれる病態を形成します。
    滑脳症は多くの場合両側大脳半球に及ぶことが多いので、直接手術で治療するのは困難です。
    しかし、激しい転倒発作や強直性全身けいれんを反復する場合は脳梁離断術が有効となります。  
    大脳の一部に裂け目があり、これが脳室と交通している分裂脳症と呼ばれる病気もあります。
     
     皮質形成障害の中には、MRIなどの画像診断でははっきりせず、脳波異常のみを伴い、外科的に切除した組織を顕微鏡で調べて初めて診断のつくタイプもあります。
    このようなタイプは、微少皮質形成障害とよばれ、脳の広い範囲に、種をまいたような播種性焦点を形成し、しばしば難治てんかんの原因となります。  
    大脳皮質形成障害が原因となるてんかんは、抗てんかん薬が効きにく、その理由としては、皮質形成障害を構成する神経細胞はきわめて強いてんかん波を発生するからです
     

  5. 脳腫瘍などの病気

  6.  てんかん発作の原因のもう一つとして脳腫瘍血管腫などの病気が関係していることがあります。  
    このような腫瘍や血管腫は、胎児期に大脳が形成されるときに発生したものが大部分で、皮質形成障害の親類のようなものです。
    たとえて言えば、皮膚にできるほくろやあざが、大脳にできたと考えも良いでしょう。  
    従って、てんかんの原因となる先天性脳腫瘍や血管腫は、悪性腫瘍のようにどんどん成長して脳を圧迫するような症状を出すことはまずありません。  
    しかし、良性腫瘍でも、脳にとっては一種の異物ですから、脳を刺激しててんかん発作を起こすことになります。  
    血管腫も、脳の血管が形成される場合に、一個所に毛糸の玉のように血管が固まってしまったもので、やはり先天的な病気です。  
     脳の広範囲に、脳を包む軟膜が血管腫に覆われる病気があり、スタージ・ウェーバ症候群と呼ばれます。
    スタージ・ウェーバー症候群は、顔面の赤いあざ(皮膚の血管腫)、てんかん、知能低下を三つの代表的な症状とする病気です。
    実際にはこのような典型的な症状をそろえないいろんなタイプのものがあります。  
     スタージ・ウェーバー症候群と同様に、大脳半球の広範囲がおかされる病気にラスムッセン脳炎があります。  
    ラスムッセン脳炎は年余にわたってゆっくり進行する慢性脳炎で、子供に発病することが多く、脳炎にかかった部分の脳は萎縮し難治てんかん発作を反復します。  
    運動性部分てんかんが重積したりする場合は、大脳皮質形成障害かラスムッセン脳炎を考えるのがてんかん専門医の常識となっているくらいです。  
    脳炎におちいった部分を切除しても、さらにその周辺に広がり、最終的には大脳半球全体を切除してしまわざるを得ない場合も少なくありません。


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