単純部分発作
ローランド野の発作
てんかん発作の中で、一番単純なタイプの発作型が単純部分発作です。
中心溝前後の中心前回と中心後回を、合わせてローランド野とよび、中心前回が運動野、中心後回が感覚野です。
運動と感覚の局在機能はほぼ同じ位置に並んでおり、顔面の運動野の後ろは顔面の感覚野が対応しています。
運動野と感覚野はこのように機能部位が明瞭に区分けされているので、発作の内容から焦点(発作の震源地)を簡単に診断することができます。
たとえば、右手のみがけいれんすれば、焦点は左脳運動野の手の領域に存在します。
また左口角が引きつれる場合は、右脳の顔面領域が焦点になります。
運動野から起きる発作は、しばしば長時間持続して、なかなか止まらない場合があります。
また、日に何度も反復することも珍しくありません。
部分発作が連続して起きて重積する場合を持続性部分てんかんと呼びます。
運動野などの切除不可能な場所にてんかん焦点が存在するときは、機能温存的手術法であるMST(軟膜下皮質多切術)という手術法が用いられます。
視覚性発作
運動野に次いで頻度の高いのが視覚野の発作です。
眼球に入った光の刺激は、脳の中を前後に長い距離伝達されて、最終的に後頭葉の視覚領に達します。
この視覚領は左右の後頭葉が合わさった内側面にあります。
この部位は鳥距溝(ちょうきょこう)と呼ばれる深い溝で上下に境されています。
鳥距溝の上下が第一次視覚野と呼ばれる視覚中枢になります。
左右の眼球の右側から入った光刺激は、眼球のレンズを通って左側の網膜に投射され、これが左後頭葉に運ばれます。
同様に、左側から入った光刺激は右側の後頭葉に到達します。
つまり、視覚刺激も運動や感覚の場合と同様に、左右逆の脳に投影されます。
直接ものを見る第一次視覚領の外側に視覚情報を解釈したり、言語野と結びつけたりする視覚連合野があります。
視覚連合野にてんかん焦点が存在すると、物がゆがんで見えたり、異様に大きく見えたり、小さく見えたりなど、複雑な視覚性発作となります
聴覚性発作
聴覚領は側頭葉に存在します。
側頭葉と前頭葉との境界をなす深い切れ目をシルヴィウス裂と呼びます。
側頭葉の上方でシルヴィウス裂に面した部分に深い脳の溝があり、この溝の両側の脳回がヘッシュル回(横側頭回)と呼ばれる聴覚領です。
側頭葉てんかんで外側皮質に焦点があり、ヘッシュル回へてんかん波が伝播すると、通常はキーンという金属性の高音の耳鳴りがします。
金属製の耳鳴が前兆となり、その後複雑部分発作に移行することもあります。
これは、側頭葉外側から発作が始まり、側頭葉内側の海馬などに発作が広がったときに見られる現象です。
言語性発作
ブローカ言語野(運動性言語野、通常左前頭葉の下方に存在)にてんかん焦点があると、急にしゃべれなくなる言語性の発作が生じます。
また、ウェルニッケ言語野(聴覚性言語野、通常左側頭葉の後方に存在)の焦点では、あたかも宇宙人がしゃべっているようなわけのわからない言葉を発することもありますが、このような純粋な言語性発作は比較的まれです。
しかし、側頭葉てんかんの外側型では、意識がぼんやりとし、周囲は見えていて、人の話し声も聞こえるが、何を話しているか理解できなといった発作は比較的頻度が高く見られます。
この場合は、軽い意識障害を伴っているので、単純部分発作よりも、複雑部分発作と呼ぶ方が、正しいでしょう。
自律神経発作
単純部分発作の中には、自律神経が関与するものがあります。
自律神経発作の中には、急に心臓の鼓動が早くなったり、呼吸が不規則になったり、顔色が青くなったり、鳥肌が立ったりなどの、いろんな種類があります。
このような自律神経発作は、内側側頭葉てんかんに伴って出現することが多いですが、前頭葉の底面(眼窩面)などに焦点があっても見られる発作症状です。
てんかん性頭痛
また、てんかん性頭痛と呼ばれ、偏頭痛とまぎらわしい頭痛を反復するてんかんもあります。
特に、小児ではてんかん性頭痛は決してまれなものではなく、小児の難治な頭痛では脳波検査をして、てんかん性頭痛の可能性をチェックするのが大切です。
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文責 清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)
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