血中濃度の意味づけ
個体差
てんかんの薬物療法において、血中濃度はきわめて重要です。
同じ量の抗てんかん薬を服用していても、血中濃度は患者さんごとに非常にばらつきます。
たとえば、バルプロ酸の場合、通常50-100 μg/mlが標準的な治療範囲です。
ところが、1日デパケンR(200) 4錠で60μg/mlに達する方がいるかと思うと、
1日10錠服用して、やっと同じ濃度に到達する方もいます。
同じ量のお酒を飲んでも、酔い方に非常に個人差があるように、抗てんかん薬の場合も、
血中濃度を測定してみないと、どの程度に薬が作用しているか判断できません。
薬の相互作用 (interaction)
抗てんかん薬を単剤で服用している場合と、複数で服用している場合では、血中濃度が
変化してきます。
多くは相互作用により血中濃度が低下することが多いのですが、中には上昇する
例もあります。
したがって、複数の抗てんかん薬を服用していて、その中の1剤を変更した場合は、他の
薬についても血中濃度を測定する必要があります。
新しい薬との相互作用により、血中濃度が変化するからです。
服用量と血中濃度
2錠服用してた薬を4錠にすれば、血中濃度は倍になると考えるのが普通です。
しかし、必ずしもこのような直線的対応で血中濃度は変化しません。
その代表がフェニトインです。
フェニトインは、服用量を徐々に増量しても血中濃度はきわめて徐々にしか上昇しません。
そして、ある服用量の点を過ぎると、急速に上昇します。
したがって、血中濃度が低いからといっていきなり増量すると、中毒症状が出現することも
珍しくありません。
経時的変化
薬は、服用して1-2時間で最高の血中濃度に達し、その後緩やかに低下していきます。
最高血中濃度の半分の濃度になるまでの時間を半減期と称します。
半減期が短い薬は、1日3回くらいに分けて服用します。
ところが、半減期が非常に長い場合は、1日1回の服用でも、胃ほぼ一定の血中濃度を
維持することが可能です。
たとえば、バルプロ酸の場合は、服用後1時間で血中濃度は最高となり、半減期が約10時間
くらいです。
これに反して、フエニトインの場合は、服用後4時間で最高濃度になり、半減期は15時間も
あります。
したがって、朝の服薬前と、服薬1時間後くらいに2度採血すると、最高と最低の血中濃度が
ほぼ判明できます。
朝の服薬前に発作が多い人は、血中濃度が一番低くなったときに発作を抑えるだけの濃度
より低下している可能性があります。
外来では、麻の服薬後の血中濃度が比較的高いときに採血をしますので、どうしても
高い血中濃度が得られることになります。夕方に発作が起きる場合は、お昼に薬剤を
追加した方がよい場合もあります。
Rのマークがついた薬は除放剤といって薬がゆっくり吸収され、半減期も長くなるように
作られています。
この場合でも、最高濃度と最低濃度にはかなり開きが出てきます。
したがって、除放剤の場合でも、1日3回に分けた方が発作抑制効果が高い場合もあり得るわけです。
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文責 清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)
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