転倒発作・脱力発作


小児のてんかん発作の中で最も激しい発作型がこの転倒発作(脱力発作または失立発作)です。
医学的には失立発作が正式な呼称ですが、転倒発作の名前の方が直接的で分かりやすいので、最近では医者の間でもよく使われるようになりました。
転倒発作は、突然激しく倒れ、いつも生傷が絶えないのが特徴です。
そのため、患者さんはヘッドギアと呼ばれるヘルメットのようなものを頭にかぶって、頭部を保護する必要があります。
全身けいれんやその他の意識を消失する発作でも患者さんは倒れることがありますが、転倒発作とは異なり、ゆっくり崩れるように倒れるので、倒れる際に怪我をしないように体を防御することができます。


これに反して、転倒発作の倒れ方はすさまじく、まるで勢いがついたように激しく倒れます。
倒れ方にもいろいろなタイプがあり、突然、両側の上肢をピクッと広げて倒れ込むもの、
いきなり前方に頭から倒れるもの、お尻から尻餅をつくようにドシンと後方に倒れるものなどがあります。
倒れ方があまりに激しいために、手をつないでいる母親も一緒に引っ張られて転倒することがあるほどです。
中には、ドアの開閉などの些細な物音がするだけでいきなり転倒する、驚愕発作と呼ばれるタイプもあります。
転倒発作を含めて様々な発作型を持つ小児の代表的な難治てんかんがレノックス・ガストー症候群と呼ばれます。
この激しい発作が起きるメカニズムには、脳梁という脳の組織が密接に関係しています。



脳梁は、てんかん波のかっこうの通り道です。
脳の表面から発生したきわめて速いてんかん波が、脳梁を介して急激に伝播し、あたかも左右の脳波が共鳴したような左右対称型の波が広範囲に出現すると、脳は一瞬機能停止の状態になり、大木が倒れるように患者さんは転倒してしまいます。



この左右のてんかん波が急激に共鳴する現象を両側性同期と呼び、脳波上では、棘徐波(スパイクと徐波が連結した波)や多棘波(多数のスパイクが連続して出現)が、左右対称型に広範囲に出現します。
転倒発作を持った小児の場合は、発作を起こしていないときでも、この両側同期性の異常波が常時出現しています。
この波が出現すると、脳の中で雑音として働き、周囲の刺激が頭に入りにくくなります。
そのため、子供は集中力がなくなり、落ち着きがなく一個所にじっとしておれない(多動性)などの症状を呈すると共に、次第に脳の機能が低下してきます。
幼稚園から小学校低学年の、まだ脳が発達過程にある段階で転倒発作が起き始めると、次第に言葉の数が減ってきたり、理解力が低下したり、歩行が不安定になったりなどの、精神運度面での遅れが目立ってきます。


この状態で薬が効かずに思春期まで達しますと、ほとんど言語機能を失い、重症の知能低下の状態になってしまいます。
これを防ぐためには、症状が極端に進行しないうちに、脳梁を切断して左右の異常波の共鳴を止める必要があります。


転倒発作の仲間に、首がガクッと前に屈曲する脱力発作があります。
この発作の機序も転倒発作と同じで、脳波上も左右同期性の異常波が認められます。
中には、脱力発作と転倒発作を合わせ持っていたり、脱力発作が主体で、これがひどい時には転倒するなどの人もいます。
脱力発作も転倒発作と同じように、脳の発達にはきわめて悪い影響を与えます。
従って、このタイプの発作が出現し、精神運動面での発達遅滞、退行が観察されたら、早期に対処する必要があります。
小児のこのような難治てんかんの代表がレノックス・ガストー症候群です。
これまでは、あまり有効な薬剤がなく、なるべく早期に脳梁離断術を施行するのが最善の手段でした。
しかし、2004年5月からルフィナミド(イノベロン)という、レノックス・ガストー症候群に有効性の高い薬剤が発売されました。
この薬の効果はかなり期待できますので、脳梁離断術を決心する前に、まず試みるべきと思います。
大切なことは、薬でも手術でもどちらの手段でもよいから、脳波上の左右同期性棘徐波を緩和し、
転倒発作が起きないようにすることです。
これを言語発達期の前に行えば、言語機能を喪失する悲劇から免れることができます。



(文責) 清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)

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