前頭葉てんかん



 前頭葉から始まるてんかんも、しばしば難治てんかんとなりてんかん手術(てんかんの外科的治療)の対象となります。
しかしながら,原則はあくまでも薬物治療を最大限に試み,その効果が期待できないと判明した症例のみが手術の対象となります.
薬物の選択に関しては,他の部位からのてんかん発作と同様で,部分発作はカルバマゼピン,全般発作はバルプロ酸が基本となります.
これのみでコントロールされない時は,最近市場に出た新薬などを追加して多剤併用の治療となります.
薬物療法につきましては薬物治療の項を参照していただいて, この欄では,手術法に焦点をあてて解説します.
前頭葉は大脳で最大の容積を持つ脳葉です。
側頭葉てんかんと異なり、前頭葉に特有な発作型はありません。
てんかん焦点の部位によりいろんな発作型が出現します。
発作型と脳波所見からてんかん焦点部位を予測し、その部分を中心に大きく開頭します。
手術中は、脳表面から直接記録する脳波所見に基づいて、てんかん焦点の範囲を決定します。
前頭葉てんかんの外科的治療は、この術中脳波なしでは不可能です。
代表的な発作型と、その発作型に対する手術法を別個に解説することにします。
前頭葉の焦点部位と発作型

発作症状と手術法

  1. 複雑部分発作

  2.  前頭葉てんかんでも、側頭葉てんかんと同様に複雑部分発作がおきます。
    しかし、その様相は側頭葉てんかんとは著しく異なっています。
    発作は、突然始まり、短時間で突然終わります。
    患者さんは、大声を上げたり、うめいたりします。両手を激しく振ったり、足を自転車をこぐようにばたばたさせることもあります。また、アラーの神に祈るように、体を前後に激しく屈曲させることもあります。
    このように、前頭葉からは島する複雑部分発作は左右対称性の動きをします。
    発作は夜間や起床時に多いのが特徴で、一回で終わらず何回も発作が群発する特徴があります。
    前頭葉の複雑部分発作は、前頭葉底面や内側深部に焦点があります。
    これらの部位は前頭葉辺縁系と呼ばれ、古い脳に属します。
    辺縁系に属する部分は安全に切除することが可能です。
    従って、焦点の診断がつけば、外科的治療により発作を完治させることも可能です。
    しかし、前頭葉の焦点はしばしば左右両側に存在することがあります。このような場合は、時期を分けて二回の手術が必要になります。
    手術が順調にいけば、後遺症が出ることはありません。
    両側を手術すると、一時的に前頭葉の機能検査で成績が低下しますが、半年くらいで正常に戻ります。

  3. 捻れる発作(向反発作)

  4.  前頭葉の内側に焦点があると、捻れる発作が起きます。
    通常は、焦点と逆の方向に眼球や頭が強く引っ張られるように捻れます。
    時には、焦点と逆の手を挙上させ、あたかもその手を見つめるように体を捻ります。その動作は「弓を引く姿勢」に似ていることがあります。
    このような典型的な姿勢は、後方の運動野に近づくほど顕著になります。
    運動野の直前に補足運動野がありますが、ここの焦点では非常に強いねじれの発作が見られます。
    前頭葉の内側も片側であれば切除可能な部位です。
    強い焦点部位は切除し、比較的弱い異常波を出す焦点はMSTで対処すれば、後遺症なく安全に手術が可能です。

  5. 全身けいれん発作

  6.  全身けいれん発作は、前頭葉で比較的起きやすい発作型です。
    特に、全身けいれんを起こす場所が決まっているわけではありませんが、前頭葉の表面で、外側よりに焦点があると全身けいれん発作になりやすい傾向があります。
    MRIで特に異常所見がない場合は、焦点は種をまいたように分散しているのが通常です。
    このような場合は、切除はしないで、広範囲にMSTをおくと安全に手術が可能です。
    手術中の脳波所見に基づいて、異常な範囲をくまなく処置することが手術の成功につながります。しかし、播種性に分布した焦点を完全に処理するのは困難なことが多いので、補助的に部分的な脳梁離断術を併用しておく方が確実な効果が期待できます。

  7. 転倒発作

  8.  前頭葉の広い範囲に焦点が存在すると、転倒発作が生じます。
    左右のてんかん焦点が脳梁を介して急速に共鳴すると、左右の大脳半球は一瞬停電状態に陥いり、患者さんは激しく転倒します。
    転倒まで至らないで、頭を強く前屈することもあります。
    このような転倒発作は小児期に発症することが多く、放置しておくと、大脳機能の荒廃を招きます。
    転倒発作には脳梁離断術が有効です。
    小児の場合は、脳梁を全体にわたって切断するのが確実で有効な治療法です。
    しかし、成人の場合は、「半球離断症候群」と呼ばれる後遺症が出現する場合があるので、脳波異常の分布に応じて、脳梁の切断範囲を決定します。
     焦点が前頭葉に限局している時は、脳梁の前二分の一から三分の二くらいを切断すれば効果が得られます。
    脳梁離断術はてんかん焦点を除去するわけではありませんので、転倒発作は消失しても、それ以外の発作が残存することがあります。
    通常、全身けいれん発作は程度が軽くなりますが、捻れたりする部分発作にはあまり効果が期待できません。



文責  清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)





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