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迷走神経刺激

現在、迷走神経刺激が広く行われています。

外科的治療ではありますが、てんかん手術のように、脳に直接メスを加える手術ではないことから、比較的安易に行われている傾向があります。頸部の迷走神経に電極線(リード線)を巻き、胸に埋め込んだ発信器(ジェネレーター)から電気刺激を送る方法です。刺激条件は、パソコンで経皮的に設定できます。 迷走神経は、脳の各部位との神経的つながりが密であることが知られています。また、脳の賦活系である脳幹網様体とも緊密に関連しています。
胸部の刺激装置で刺激のパラメーターを決定して、首の迷走神経を刺激すると、電気刺激が脳の広範囲に伝わり発作を抑制する仕組みです。

刺激の種類は2種類あって、5-10分間隔で定期的に刺激する方法と、臨時に刺激する方法があります。例えば、発作の前兆がある人は、前兆を感じたら、臨時の刺激を送ることにより、発作を予防できる可能性があります。
この迷走神経刺激は、日米で広く行われていますが、その効果は微妙と言わざるを得ません。基本的に迷走神経が行われる人は、
1.難治てんかんではあるが、通常のてんかん手術が困難 
2.手術を施行したが、発作が完全に抑制されないので、追加して迷走神経刺激を行う
3.抗てんかん薬を多剤服用しているが、発作が止まらないので迷走神経刺激をやってみよう
等の人が対象となります。

私自身の経験では、迷走神経刺激手術の効果は、おおまかにいって、半分くらいの患者さんはやってよかった、残りの半分はやっても意味が無かったという感じでしょうか。しかし、やってよかったという人の中で、発作が完全に消失したという例はほとんど無いように思います。
しかし、子供さんの場合は、成人と違って、精神運動発達が促進されるように思います。これは、迷走神経と大脳との密接なつながりを考えると納得がいきます。

てんかん発作を抑制するという意味では、迷走神経刺激術はあまりすぐれた方法のようには思えません。姑息的手段に近いかも知れません。しかし、脳の刺激により発作を抑制する方法は、今後の医学の未来につながるものであり、迷走神経はその第一歩という捉え方が大事かと思います。その意味では、今後、直接的、間接的に大脳を刺激して、てんかん発作を抑制する方法が開発されていくことが期待されます。すでに、脳の深部刺激によるてんかんの治療も広く研究が行われています。



文責 清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)


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