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前頭葉から起きる複雑部分発作

前兆と発作
同じ複雑部分発作でも、前頭葉から起きるタイプは側頭葉の複雑部分発作と著しく異なっています。
側頭葉てんかんのような明瞭な前兆を伴わないことが多いのですが、動悸がしたり、何となく発作が起きなそうな気分になったりすることは時々見受けられます。

発作症状
発作の持続時間は30秒以内と短く、突然始まり突然終わるのが特徴的です。
側頭葉てんかんは通常1-2分、時には数分におよび、発作が終わった後もしばらくは意識がもうろうとしているのと比較するときわめて対照的です。
前頭葉の複雑部分発作は発作回数が多く、日に数回、時には数十回から百回以上に達することさえあります。
睡眠に関連して発作が起きるのも特徴で、夜間や昼寝の最中などにしばしば発作が起きます。
しかし、発作の頻度が増してくると、睡眠に関係なく日中でも起きるようになります。
発作の様子は、自転車をこぐように両足をばたばたさせたり、チアガールのように両手を頭の上で振ったり、体を前後に屈伸したりします。
両手両足、あるいは体幹などを左右対照的に動かすのが大きな特徴です。
激しくなると、床を転げ回るようなタイプの発作もあり、いよいよヒステリーとの区別が難しくなります。
一般的に、前頭葉の発作中は大声で叫んだり、うめいたりなど、何らかの発声を伴う傾向があります。
中には、隣近所に聞こえるような、大声をあげる患者さんもいて、家族の悩みの種になります。 
側頭葉てんかんのばあいは、意味のある言葉を発することが多いのですが、前頭葉の場合は、言葉を発することはなく、叫び、うめき声などが一般的です。
とにかく、前頭葉から始まる複雑部分発作の特徴は、その激しい動きにあります。
前頭葉てんかんが誤ってヒステリーと診断されることが少なくないのが、ご理解頂けると思います。

精神症状
前頭葉てんかんの精神症状は、側頭葉てんかんほど画一的でなく、やや複雑な様相を呈します。
側頭葉てんかんの場合と同様に、全く精神症状を欠いている場合も少なくありません。
しかし、中には、社交性が極端に欠如し、自分の中に閉じこもり、他人と余り交わろうとしない性格変化も見られます。
小児や、知的障害を伴っている場合、一見自閉症的な様相を呈することもあります。
また、側頭葉てんかんと同様な攻撃的傾向を示すこともあります。
しかし、詳細に観察すると、側頭葉てんかんのような衝動的な攻撃性ではなく、より慢性的な性格変化として、攻撃性、排他性、自閉性などを示す傾向があるようです。

外科的治療
前頭葉から起きる複雑部分発作分発作は、多くの場合、外科的治療がきわめて有効です。(前頭葉てんかんの手術)
前頭葉の複雑部分発作は、焦点の場所が前頭葉の底面か、帯状回と呼ばれる内側に限局しています。
従って、これらの場所を手術中に脳波で丹念に調べれば焦点を見つけ出すことができます。
しかも、これらの場所は、大脳辺縁系と呼ばれる古い脳に属しており、安全に切除することが可能です。
ただ、側頭葉の複雑部分発作の場合とは異なり、前頭葉では両側の脳が焦点に巻き込まれていることも少なくありません。
このようなときは、半年くらいの間隔を開けて、両側の手術をする必要性があります。
私どもの経験では、両側の手術をしても、永久的な後遺症が残ることはありません。

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文責 清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)


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