てんかんとは
てんかんはどうして起きるか
てんかんはどうして起きるのでしょうか。
てんかんは慢性的な病気で、最初の発作のずっと前から(時には数年以上)、徐々に脳細胞に変化が起きて、てんかんの震源地、焦点が形成されます。焦点とは、たとえて言えば、電気の配線がショートしているような箇所です。普段の漏電は小さく、てんかん波が出ているだけです。しかし、大きなショートが起きるとてんかん発作となります。原因は3つに大別されます。
・大脳皮質の形成障害
・大脳の古い傷
・遺伝
てんかんというと、遺伝を考える人が多い思いますが、実は遺伝性のてんかんは、余り多くありません。しかも、大部分は良性で、小児期に発生し、思春期くらいまでに自然に治るのがほとんどです。したがって、てんかんの最大の原因は、脳の形成障害か、脳の古傷と言えます。
胎児期の4-8週くらいの間に、大脳の基本的構造が完成します。脳の中心から外側に向かって、神経細胞が大移動していきます。この過程がスムーズにいかないと、いろんなタイプの形成障害が生まれます。未完成の大脳組織は、強いてんかん波を発生します。広い意味では、先天性の脳腫瘍、血管腫なども脳の形成障害に含めることができます。
もう一つは、脳の古傷です。
脳の傷というと、小さい頃木から落ちたとか、転んで後頭部を強打したとか、頭部外傷を思い浮かべる人が多いのですが、実際は外傷が関係する頻度はきわめて低いと思われます。仮死分娩、脳炎、髄膜炎、はしかや突発性発疹、幼少期の脳の大血管の閉塞、脳外科の手術後、などいろんな原因が挙げられます。しかし、われわれが手術を行うような難治てんかんの患者さんの半数以上は、はっきりと思い当たる原因がありません。そのような場合でも、脳組織を顕微鏡で見ると、形成異常型か古傷型かを区別できます。
てんかんの頻度と発生年齢
成人になって、突然にてんかん発作が起きると、大概の方はびっくりします。でも、てんかんとは、常に突然起きるものなのです。
また、生まれてから死ぬまで、どの年齢でも発生します。てんかんにかかっている人の割合は、1%、100人に1人ときわめて高率です。これは、脳の病気の中でもきわめて高率です。60代以上の高齢でてんかん様の発作が起きた場合は、脳血管障害、心臓病、糖尿病など他の成人の病気と鑑別することが大切です。
特に最近は高齢者のてんかんが注目されています。物忘れ、怒りっぽいなどの情動の変化が認知症と酷似しているために、てんかんと診断されないこともしばしばあります。てんかんと認知症の鑑別は今日の重要な課題と言えましょう。
また、20歳前後の若い人は、不安神経症といって、てんかんのようにけいれんしたり、意識がもうろうとなったりすることがあります。急に不安感が襲い、酸素が足りないような気持ちになり、過呼吸から意識がもうろう、けいれんと続くのは、代表的な不安発作で、過呼吸症候群とも呼ばれます。
てんかんの診断には、てんかん専門の医師にきちんと診てもらう必要があります。
てんかんの薬物療法
てんかんの治療はまず薬物療法を行います。発作の型に応じて、処方する薬の内容が異なります。また、てんかんの薬は、血液に移行した薬剤の濃度(血中濃度)を測定して、投与量を厳密に決定します。
発作の止まりにくい場合は、血中濃度を治療域の一番高いところまで持って行く必要があります。
てんかんの専門医にかかれば、てんかんを持った患者さんの80%は薬剤でコントロールが可能です。しかし、薬剤の調節は非常に高度の知識と経験が必要ですので、必ずてんかん治療の長い経験をもった専門医にかかって下さい。
患者さんの中には、何年間も薬を飲み続けるのを嫌がる方もいます。しかし、てんかんという病気は、薬さえ飲んでいれば、病気も進行せず普通の生活を送れる数少ない脳の病気のひとつです。したがって、薬でてんかんがコントロールされている方は、これを幸運と考え、怠薬などにより発作を起こさないように心がけながら、前向きに人生を送りましょう。
日常生活での注意
てんかん発作の予防には、日常のライフスタイルがきわめて重要です。
てんかん発作の引き金になりやすいのは、以下のような状態が挙げられます。
・薬の飲み忘れ(怠薬)
・睡眠不足
・精神的ストレス
・生理
・風邪気味などで体調の悪いとき
怠薬は論外ですが、それ以外の引き金が重ならないように、日常生活を無理のないパターンにしてください。
また、生理に関連して発作が起きやすい方は、ダイアモックスという薬が有効なことが多いので、試してみると良いでしょう。
側頭葉から起きる複雑部分発作は、発作中は温痛覚などの体の感覚が分からなくなります。
そのため、風呂場での溺死、交通事故など、きわめて危険性の高い発作といえます。
・1人での入浴は避けて、なるべくシャワーにする。
・駅のホームでは、端っこに立たない。
・1人の時に、火や熱湯を扱う家事は避ける。
・高いところに上る仕事はしない。
など、日常生活には十分注意しましょう。
てんかんの手術
薬でてんかんが止まらないときは、外科的治療を検討した方がよいでしょう。
すべてのてんかんに対して手術が可能なわけではありませんが、いろいろな技術の進歩により、
かなりのてんかん発作が手術可能となってきました。
特に、側頭葉てんかん、転倒発作などは手術の効果が高いので知られています。
てんかんの手術というと、高額の金が必要と思われ方が多いようですが、実際は高額療養費還付制度があって、食事代も含めて一ヶ月15万円以下で収まります。
てんかんの手術は、非常に専門的な手術なので、手術経験の多い医師を選択して下さい。
てんかんは治るか?
てんかんという病気は治癒するのか、これは多くの患者さんが持たれる疑問です。この質問に対して、「イェス」か「ノー」で明確に返答するのは困難です。
てんかんという病気は、基本的に「発作を起こしやすい傾向または素質」です。したがって、いろんな要素に左右されます。私の知っている患者さんで、徹夜をしたときだけに発作を起こす方がおられました。抗発作薬を服用しなくても、徹夜さえしなければ、発作は起きません。この方がてんかんという病気を持っていると言えるかどうか、非常に微妙です。
また別の例で、子供の時から抗発作薬を飲んできたのですが、20代になって、脳波が正常化し、何年間も全く発作がないので、徐々に減薬して、薬を完全に中止しました。その後、10年間、全く発作がありませんでした。
ところが、10年後くらいに、働いていた職場が変わり、急に多忙になり、ストレスが増えるとともに、規則正しい睡眠もとることができなくなりました。そのとたんに、10年間なかった発作が再発したのです。
これらの事例からわかるように、てんかんという病気は、「てんかん発作の起こしやすさの傾向」と考えた方がよいでしょう。子供のてんかん発作の中には、年齢依存性で、成人になるとともに発作が消失するタイプもあります。
このような年齢依存性のてんかん発作は特殊な例で、成人になって発病するてんかんも少なくありません。このような発作の場合、睡眠不足、ストレスなどの発作の誘発因子の多寡が大きく関係します。
何年間も発作がなく、ストレスなく規則正しい生活が送られている場合、抗発作薬を中止できる場合も少なくありません。また、極めて長いタイムスパンで、発作を起こす傾向が軽減する場合もあります。このような発作の起こしやすさを総合的に判断して、脳波の所見を参考にして、薬の減量や中止を決定する必要があります。
また薬の減量も、慎重に少しずつ減らしていき、その過程で、発作の前兆などが感じられたら、元に戻す必要があります。一般的に、加齢とともに発作の傾向が減弱すると考えている方がいますが、そのような傾向は証明されていません。むしろ、最近は高齢化が進むとともに、65歳以降に発病する高齢者てんかんも増えています。
てんかん発作の起こりやすさは、非常に多くの因子で構成されており、薬の減量は医師と相談しながら慎重に行う必要があります。自己判断による断薬は、てんかん発作を誘発する危険性があり、自分の社会的立場を不利にすることもあり得ますので、十分慎重になりましょう。
てんかんの法的支援
てんかんの薬物療法を外来で受けている患者さんは、「自立支援(精神通院)」という制度で、収入に応じた医療費の控除を受けることができます。
保険で支払う医療費が1割負担となり、かつ収入に応じた支払いの最高限度額が決まっていますので、経済的負担がかなり軽減されます。発作が止まらず、就職も困難方は、「精神障害者年金」の支給を受けることができます。しかし、これまで年金の支払いを怠っていた方には受給資格がありませんのでご注意下さい。
年金の資格がない人は、「精神障害手帳」を請求することができます。1級から3級までの等級があり、級に応じた免税、交通機関や公的施設の無料利用などいくつかの特典があります。
また、ハローワークで障害者枠の就職を捜すこともできます。
→ より詳しい説明はこちらをご参照下さい
てんかんを予防する方法
てんかん発作をかなり確実に予防する方法はただ一つあります。ダイアップ坐薬を用いる方法です。この座薬は、小児がてんかん発作を起こしたあとに用いるのが通常の使用法です。これを成人の発作予防に使用すると、著明な効果が得られます。
ダイアップ坐薬の成分は、抗不安薬として昔から使用されているセルシン(ジアゼパム)です。経口薬のセルシンを使用しても、ダイアップ坐薬のような効果は得られません。
ダイアップ坐薬には、4mg、6mg、10mgと3種類あります。成人に使用するのは、10mgです。10mgで眠気を感じる人は、6mgでも可能です。使用するタイミングは、発作が予想される30分くらい前までに、使用するとよいでしょう。ダイアップ坐薬の半減期は35時間ですので、効果はかなり持続するのが分かります。しかし、通常の薬と同様に、血中濃度が最高に達するのは1時間後くらいで、その後徐々に降下していきます。したがって、発作の起きる可能性が非常に高いときには、数時間後にもう一つ追加するのがよいでしょう。1日3個くらいまでは、問題無く使用できます。人によっては、眠気が出る場合もありますので、その場合は、加減して下さい。
どのようなときに、発作が起きやすいかは、自己観察を緻密に行って、自分でしっかり頭に入れておくことが肝心です。睡眠不足、過労によるとストレス、低気圧、生理前などの誘因は、比較的よく知られていることだと思います。
意外と知られていないのが、旅行、実家に帰るなど、普段と異なる行動をとるときに発作が出やすいのは注意した方がよいと思います。くつろいだ家族旅行だから大丈夫だろうと油断していて、意外と発作につながることも少なくありません。特に海外旅行などは、時差もあり、服薬も不規則になりがちなので、ダイアップ坐薬を活用するとよいでしょう。
また、抗てんかん薬を多剤飲んでも発作が抑制されない場合、毎日出勤前にダイアップ坐薬を使用するのも一法です。このように、ダイアップ坐薬をうまく活用すると、てんかん発作による不安をかなり排除でき、新たな活路が開けてきます。
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文責 清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)
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