てんかん治療における漢方
てんかんの治療において漢方は非常に有用です。
以下、漢方の有用性について具体的に述べてみたいと思います。
1.低気圧で悪化するてんかん
低気圧でてんかん発作や随伴症状が悪化する事例は時々見られます。低気圧が近づくと発作が悪化するように感じられる。それも、東京に住んでいて、九州あたりに低気圧が近づいたくらいで調子が悪くなる。発作頻度が増える、頭痛、倦怠感、吐き気などが出現するなどの症状が見られることがあります。
このようなときに有効な漢方が五苓散(ゴレイサン)(ツムラ17番)です。五苓散は沢瀉(タクシャ)、蒼朮(ソウジュツ)、猪苓(チョレイ)、茯苓(ブクリョウ)、桂皮(ケイヒ)の5つの生薬から構成されています。利尿薬を主作用とする生薬がメインになっています。一度に多めに服用しても副作用があまり出ない薬です。したがって、低気圧が近づいたときは、1日4包あるいは1回に2包服用したりすることも可能です。
例えば、低気圧で頭痛が激しくなる人の治療法として、五苓散と呉茱萸湯(ゴシュユトウ)(ツムラ31番)を同時に服用し、1分以内に頭痛がとれなければ10分後に同量を追加します。それでも効果が出現しない場合は、また10分後に3回目を追加するなどの方法も報告されているくらいです。
五苓散は単純な利尿薬ではなく、体の水分量を適切に保つという作用があります。したがって、体のむくみ(浮腫)等に効果があるだけでなく、熱中症の予防、水様性下痢、めまい、二日酔いなど様々な生活の場面で効果が認められます。この作用は西洋の利尿薬と異なり、漢方では体の水分量を適切に保つという独特な作用が認められるからです。
2.精神的興奮を抑える効果
てんかんの患者さんには精神的にイライラが強かったり、情動が不安定になったりすることが少なくありません。特に側頭葉てんかんの患者さんでこのような傾向が見られます。そのようなときにいきなり西洋薬を使用せず、副作用の少ない漢方から始めるのも一法です。
情動を安定させる漢方薬として、柴胡加龍骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)(ツムラ12番)、抑肝散(ヨクカンサン)(ツムラ54番)、抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)(ツムラ83番)などが用いられます。抑肝散加陳皮半夏は抑肝散を使用するにはやや体力の低下した人に適しています。これらの薬は睡眠薬としても使用可能です。ちなみに、漢方の睡眠薬としては酸棗仁湯(サンソウニントウ)(ツムラ103番)がよく知られています。
また女性の場合、生理に関連して発作が増強したり精神的に不安定になったりすることがあります。このような場合、西洋薬のダイアモックス(アセタゾールアミド)を予想される調子の悪い期間のみ服用するのも有効な手段です。しかし、これのみで精神的不調が完全に改善しない場合は、加味逍遙散(カミショウヨウサン)(ツムラ24番)が有効です。加味逍遙散は生理不順や冷え性などにも使用され、どちらかと言えば虚証(体力の無いタイプ)に適しています。したがって、体力が中等度の人は桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)(ツムラ25番)と併用するとより効果的な場合もあります。
3.抗てんかん薬による肝機能障害
抗てんかん薬の服用中に肝機能障害を生じることは珍しくありません。明確な身体的な症状が出るわけではありませんが、血液検査でγ-GTの上昇として検知されます。抗てんかん薬を服用していると軽度のγ-GTの上昇はよく見られることですが、γ-GTが150を常に超えるような値の場合は、肝機能障害として治療が必要です。このようなときに頻用されるのがウルソです。ウルソは西洋薬のようですが、実は漢方の熊の胃の成分であるウルソデオキシコール酸から抽出したものです。ウルソで肝機能の改善が順調でない場合は、小柴胡湯(ショウサイコトウ)(ツムラ8番)、茵ちん蒿湯(インチンコウトウ)(ツムラ135番)等を追加すると有効な場合が少なくありません。
このように、漢方はてんかん治療においていろいろな状況で有用なことが少なくありません。漢方を上手に利用することでてんかんの薬物治療の奥行きが深まるとも言えるでしょう。
→ 「てんかんについての疑問すべてにお答えします」に戻る
文責 清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)
> 清水クリニックのホームページに戻る