てんかん手術に必要な入院期間と費用

てんかん手術に必要な入院期間は、施設によって異なります。
私共の施設では検査入院と外科的治療のための入院とに分けて2回の入院期間を設定しています。
入院期間は、検査入院の場合、通常3週間です。

 その後、一度、退院して手術の順番を待っていただきます。
一回だけの手術の場合は約5週間、頭蓋内電極留置と治療的手術をあわせて行う場合は、大体7週間くらいの見当です。
以下、もう少し具体的に説明しましょう。

  • 検査入院

  •  外来の診察で、外科的治療の可能性がありそうな場合は、検査入院をして頂きます。
    検査入院の期間は平均3週間くらいです
    てんかんの手術にとって、検査は手術と同様に大切なものです。
    検査で行われ内容は以下の通りです。

    1. 発作内容の解析

    2. てんかんの術前検査の中で、発作の性質を確認することが一番大切です。
      そのために、発作の内容について、ご本人、家族に詳しく質問をします。
      典型的な発作型の場合は、この問診だけで発作型を決定することが可能です。
      しかし、発作内容が明確に把握できない時は、ビデオモニタリング必要になります。
      患者さんのベッドサイドにビデオカメラをおいて、24時間連続してカメラを回し続けます。
      発作の頻度が高い場合は、発作をカメラにおさめることができます
      しかし、発作頻度が余り高くない場合や、入院したら急に発作が起きなくなってしまったりした場合は、
      うまくいかないこともあります。
      現在では、ビデオカメラをがかなり普及していますので、自宅で発作の様子をビデオに撮っておくのも、
      発作型を正しく理解してもらうための有効な手段です。

    3. 反復頭皮脳波

    4.  

      てんかん焦点の診断に脳波はきわめて大切です。
      脳波、その日の体調で変化するもので、一回検査しただけで結論を下すのは正しくありません。
      私共の施設では、日を変えて最低3回は記録するようにしています。
      この検査で診断がつかない時は、終夜脳波を記録します。
      てんかん性異常波は睡眠中に出現しやすいので、夜間ぶっ通しで脳波記録を行うと非常に診断的価値があります。
      また、側頭葉てんかんでは、てんかん焦点が側頭葉の深部に存在することが多いので、蝶形骨誘導という方法を用います。
      蝶形骨誘導は、頬骨の下から細い電極を刺入して、側頭葉の底面に近づけます。
      このようにすると、通常の頭皮脳波では十分補足できない深部のスパイクが明瞭に記録されることがあります。

    5. 画像診断

    6.  画像診断の種類としては、CTスキャン、MRI、SPECT、PETなどがあります 。
      どの検査もそれぞれに意味がありますが、特にMRI検査が重要です。
      MRI検査で、てんかん焦点に関連する病変が発見されれば、手術で発作が止まる可能性は非常に高くなります。
      しかし、MRIで異常所見がないからといって、手術をあきらめる必要はありません。
      発作型と脳波所見が一致していれば、十分に手術は可能です。
      てんかん焦点があるのにどうしてMRIで異常が見つからないのか不思議に思われるかもしれませんが、 異常が細胞レベルの微細な変化ですと、脳波では把握できてもMRIでは正常なことは珍しくないのです。

    7. 神経心理学テスト

    8. てんかん手術の前には、各種の大脳機能の検査を行います。
      知能指数、記憶力、言語機能、前頭葉機能、など多角的に検査を行います。
      小児の場合は発達の程度を評価します。
      このような検査は、外科的治療を行った後に再度施行し、手術により大脳機能に影響が出ていないかを判定します。
      手術により、通常、大脳機能は不変か改善することがほとんどですが、きわめてまれに悪化する場合もあります。
      万が一悪化が見られた場合は、半年後、一年後と追跡して、 大脳機能の回復の程度を検査します。


  • 手術のための入院

  • 手術のための入院には2種類あります。
    検査入院の結果、直接てんかん焦点に対する手術が可能な場合は、約4-5週間程度の入院期間となります。
    これに対して、検査入院でてんかん焦点の診断が十分に確定しなかった場合は、治療的な手術に先立って、
    診断のための手術が必要となります。
    診断のための手術として、脳の表面に直接電極を配置し、一端手術創を閉じた後、病室で数日間の連続皮質脳波録を行います。
    皮質脳波とは、脳表面から直接記録する脳波のことです。
    頭蓋内電極留置手術を施行した後に、治療的手術を併せて行うと、全部で6-7週間くらいの入院が必要となります。
    現在は、大学病院などでは、入院期間を可及的に短くする傾向にありますので、ここに書いた数字よりも
    もっと短い入院期間ですむ可能性もあります。
    これらの日数は、すべの過程が順調に行った場合で、不幸にも手術により何らかの後遺症が出現した場合は、
    リハビリテーションのための入院期間が追加されることになります。

  • 治療費 ―“高額療養費制度”

  • てんかんの手術を行うと、非常に高額なお金が必要と思っている方が少なくありません。
    しかし、実際は、日本の保険制度には、 「高額の医療費を払った時の自己負担限度額」の制度があり、
    どんなに大きな手術を受けても、支払額は一定限度で抑えられています。
    制度の原則は、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、一月あたり一定の額を超えた場合にその金額を支給する制度です。
    この場合の一月というのは、通算の一ヶ月ではなく、3月、4月などの暦月を指していますので、間違えないように。
    奇妙な話ですが、一月の間に検査なり手術なりが終わった場合と、月末に入院して翌々月の始めに退院したのでは、
    医療費に大差が出ますので、ご注意ください。
    さて、高額療養費制度は、70歳以上と70歳未満で異なります。
    70歳未満の場合は、収入により5つに区分されています。
    標準報酬月額が83万円以上だと、252,600円+(医療費-842,000円)x1%、53万から79万円だと
    167,400円+(医療費-558,000円)x1%、28万から50万円だと80,100円+(医療費-444,000円)x1%
    26万円以下だと57,600円、住民税非課税だと35,400円のようになっています(平成27年1月現在)。
    昔の入院費用に対してのみ高額医療費還付の制度の対象となっていた時代と異なり、入院、外来、薬代
    すべてが込みになっているのが特徴です。
    高額療養費還付の対象とならないのは、食費と差額ベッド代、「先進医療にかかる費用」などです。
    このような医療費は、国公立病院に入院した場合であって、私立病院の場合は、いろんな名目の料金を請求される場合
    がありますので、一律に論じることはできません。

    また、国公立病院の場合でも、差額ベッドを利用すると、保険とは別個に一日あたりかなりの金額が必要となります。
    この、自己負担限度額を超えた高額医療費の払い戻しは、本人の請求が前提となりますので、入院の際は、
    窓口で医療費還付の方法について、しっかり確認する必要があります。
    なお、病院の支払いは一ヶ月単位で月初めから月末で区切りますので、手術を受けなかった月でも、いろんな検査を受けると、
    医療費の総額はかなり低くても、 自己負担額は手術を受けた月と余り大差がないことになります。
    医療費の負担が問題になりそうな場合は、病院にはソーシャルワーカーという相談施設がありますので、
    気軽になんでも相談してみるとよいと思います。
    医療費は、原則いったん保健医療の額を支払って、2-3ヶ月後に還付されます。
    この負担額はかなり高くなりますので、支払いが困難な場合は、無利子でお金を借入できる制度もありますので、
    何でも困ったら窓口やソーシャルワーカーなどに相談するのが賢明です。

     小児難治てんかんでは、小児特定慢性疾患の優遇処置をを受けられる場合もあります。
    これは、各地方自治体で制度が異なりますので、 乳幼児のお子様が患者さんの場合は、役所の福祉課で確認してみるとよいでしょう。
    日本の医療制度は、大手術を受けた場合などは、比較的低額の医療費に抑えられるシステムになっています。
    また、所得や疾患の種類に応じて、患者さんへの負担が軽減されるように配慮されています。
    てんかん手術を希望されているが、医療費に対して不安を抱いておられる方は、治療を受けたいと考えている病院の
    ソーシャルワーカーや医事係に相談して、 料金システムをしっかり理解するとともに、
    利用できる優遇処置がないかなどを入院前に十分検討なさるのがよいと思います。




    清水クリニック院長 清水弘之

    薬物療法、外科的治療のご相談は清水クリニック 電話 03-6304-9182




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