側頭葉てんかんの発作症状はきわめて特徴的です。
多くの場合、患者さんは動作が停止し一点を凝視します。
その後、口をぺちゃぺちゃさせたり、手をもぞもぞさせたりなどの独特の自動症が見られます。
最も特徴的なことは、患者さんはこの発作の内容を全く記憶していないことです。
発作の最中には、完全に周囲の世界と感覚が遮断されてしまいます。そのために、熱湯に手をつけても、熱したアイロンを触っても気がつきません。お風呂の中で発作が起きると、そのまま湯水を飲み続ける危険性もあります。
このような側頭葉てんかんの発作は複雑部分発作と呼ばれます。複雑部分発作は全身けいれん発作などと比較すると、静かな発作ですが、生命の危険性を伴うきわめて恐ろしい発作です。
発作の前触れとして、こみ上げるような不快感、気が遠くなりそうな感じ、恐怖感などがあり、この前兆により発作があったことを自覚できます。
しかし、中には、全く前兆を自覚しないケースもあり、このような場合は発作が起きたことすら患者さんは気づきません。
側頭葉てんかんの場合、実際に患者さんが自覚しているよりは発作頻度が高いと考えた方がよいでしょう。
側頭葉てんかんのもう一つの特徴として、性格変化があります。
攻撃性が増し、細かなことにこだわるようになります。この傾向は一定しているわけではなく、日によって変化します。非常に穏やかな時もありますし、いらいらが強い時もあります。
一般的には、発作が近づくと攻撃性が増し、発作で発散してしまうと、また安定した感情に戻るようです。
このような性格変化はすべての患者さんに出現するわけではありません。側頭葉てんかんの患者さんでも、きわめて性格的に温厚な方もいます。
なぜ、同じ病気で、このような個人差が出現するのか定かではありません。
側頭葉てんかんは、上記の発作症状をお聞きするだけで診断が可能です。
薬剤で発作がコントロールされない難治てんかんの場合は、外科的治療を考慮する必要があります。側頭葉てんかんは、外科的治療の効果が極めて高いので、検査結果が典型的な場合は、早期に手術で根治療法を行うのも一つの考え方です。
側頭葉てんかんの焦点の中心になるのは海馬という器官です。海馬は側頭葉内側の深い場所にあります。
海馬、矢印で示すように側頭葉の深部に存在し、側頭葉てんかんの焦点となる
側頭葉てんかんの診断には、まず脳波が重要です。特に、睡眠時の脳波で異常波が出現しやすくなります。
また、焦点が深部に存在するので、頬骨の下から電極を刺入して記録する蝶形骨誘導法もしばしば用いられます。
MRIで海馬を細かなスライスで撮影するのも大切です。海馬が萎縮して、硬化している所見が映し出されれば、手術により発作が止まる可能性は極めて高くなります。
MRIにより、左側の海馬が萎縮して硬化しているのがわかる(矢印)
発作症状、脳波、MRIの所見がすべて同じ片側の側頭葉の異常で一致している場合は、直接手術が可能です。
これに対して、脳波所見が確定的でなかったり、MRIで海馬の左右差が存在しない時は、頭蓋内電極を留置して、左右の側頭葉のいずれがてんかん焦点かを決定します。
すなわち、側頭葉てんかんの手術には、診断の手術を行ってから治療の手術に移行する二段構えの場合と、いきなり治療的手術ができる場合とがあります。
脳の表面に沿って、電極を海馬のすぐ近くまで挿入します。
電極を留置後は、いったん手術創を閉じます。
数日間、24時間連続して、留置した電極よりビデオ脳波モニタリングを行います。
これにより、てんかん焦点の分布が正確に診断され、この結果に基づいて治療的手術を施行します。
側頭葉てんかんの外科的治療法は側頭葉切除術と呼ばれます。
基本は、海馬を中心とするてんかん焦点を一塊として切除する点にあります。
なるべく焦点のみを選択的に切除する方法がいろいろと工夫されています。
手術は、手術用顕微鏡を用いて行われるので、安全性は極めて高いものです。
半身麻痺や言語障害などの後遺症はきわめてまれで、ほとんど起きる可能性はないと考えてよいでしょう。
→ (「てんかんの手術法」を参照)
しかし、左側の手術では、術前のMRIで海馬の萎縮が存在しないと、手術後に記憶力の障害が出現する可能性があります。
この後遺症は、側頭葉切除術に伴う最大の問題です。
われわれは、この問題を解決するためにいろいろと工夫を重ねてきました。
最近になって、左側の側頭葉切除術でも記憶力を温存できる方法を開発することができました
どのようにてんかん焦点を選択的に切除しても、海馬を切除する限り術後の記憶力障害の問題は解決できません。
われわれは、海馬を切除しないで、MST手術と同様な方法を用い海馬を切除しないで、てんかん焦点を抑制する方法に成功しました。
この手段では、記憶の神経線維は温存されるので、手術後に記憶力の障害が出現しません。
記憶力障害が出現しても、半年以内に回復するデータが得られています。
また、手術成績も、海馬を切除した場合と比較して、全く差がないことも証明されています。
側頭葉切除術の手術成績はきわめて良好で、手術を受けた患者さんの80%は完全に発作が消失します。
また、発作が完全に消失しない場合でも、多くの場合発作の改善が見られます。
手術後の服薬は、一年間経過を見て全く発作がないようでしたら、徐々に減量していくことが可能です。
この場合、脳波所見が正常化していることが大切です。
また、手術前の発作が複雑部分発作のみで、全身けいれんなどを伴っていない場合は、
安全に服薬を停止できる可能性が高いと考えてよいでしょう
いずれにせよ、自己判断による抗てんかん薬の中止はきわめて危険ですので、必ず経験のある医師と相談しながら、少しずつ減量していきましょう。
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