てんかんと間違えやすい発作


 一見、てんかん発作のように見えるが、実際は全く異なるメカニズムに原因して起きるものもあります。
てんかんとてんかん類似しているが、実際は全く別の原因による発作とを区別することは、てんかん診断の第一歩であります。
以下に、てんかんのように見えててんかんでない代表的なものをいくつかあげてみましょう。

不安発作-過換気症候群

 一見てんかん発作に類似していますが、実際はてんかん発作ではない、いわゆる「偽発作」と呼ばれる一群の発作タイプがあります。
その中で、「不安発作」あるいは「過換気症候群」と呼ばれる発作が最も頻度が高いものです。
思春期から若年成人期の女性に多い症状ですが、男性に見られることもあります。
患者さんは、突然得体の知れない不安感に襲われ、空気が足りないような息苦しさ、動悸などを自覚します。
次第に呼吸の回数が多くなり、四肢の末端にしびれ感を覚え、意識ももうろうとしてきます。
最後は、全身けいれんと区別のつかないような、激しい発作におちいり、声を上げたり、騒ぎ立てたりし、本人だけでなく、家族や周囲の人間も巻き込まれて、大騒ぎとなります。


 大概は、救急車で運ばれてくることになるのですが、救急室でも正確な診断がつけられず、誤っ「てんかん発作」と診断されることも少なくありません。
不安発作の患者さんとよく話し合ってみると、最初に得体の知れない不安おそわれること、発作中は、このまま大変な状態になってしまうのではないかという恐怖感、それから、全身けいれんに似た発作の最中でも、意識は完全に障害されておらず、ぼんやりと自分の状態を自覚しているなどの特徴が見られます。
厄介なことに、てんかん発作とこの不安発作が、一人の患者さんに同居していることがあります。
発作が起きるかもしれないという不安感が引き金となって、てんかん発作ではなくて、不安発作の頻度の方が高くなる場合もあります。
こうなると、診断は大変困難になります。
また、治療に際しても、患者さんに、このタイプの発作はてんかん発作であるが、もう一つのタイプの発作は、あなたの心が作り出した不安発作であることを、十分に説明して納得して頂く必要があります。
なかには、てんかんの外科治療を受けて発作が完治したにもかかわらず、発作がいつ再発するかという不安感のために、不安発作に至る方もおられます。

 実際の発作にまで至らなくても、不安感を発作の前兆としてとらえて、なかなか抜け出せないこともあります。
このような場合は、誰が見ても明かな発作が再発するまでは、発作と考えないように指導すると共に、何でも良いから、外部的活動を初めて、エネルギーを自分以外に向けるようにすると効果があります。
しかし、このような心理療法だけでは、なかなか完治するのが困難なことが多いのも事実です。
多くの場合、抗不安薬と自律神経を安定させる塩酸プロプラノロール(インデラル)を併用することにより、著明な症状の改善が期待できます。

転換性障害-ヒステリー

 転換性障害は、名前からして「てんかん」と紛らわしく、最も鑑別が困難な発作の一つかもしれません。
転換性障害は、文字通り、心の葛藤や強い精神的外傷などが身体症状に転換されたもので、一見てんかん発作と酷似した症状を呈することもあります。
てんかん発作と区別するためには、発作のビデオ脳波記録、詳細な生活歴を聴取するなどのプロセスが必要です。
発作型が一定せず、発作の内容がどの発作パターンにも一致しない時は、転換性障害を疑う必要があります。
転換性障害のなかには、発作症状が本人の現実逃避の手段になっていたり、家族の関心を引くなどの疾病利得と絡んでいたりなどして、通常の不安発作より治療に抵抗性であることが少なくありません。
本人のライフスタイルの確立も含めた、細やかなカウンセリングを行うと共に、病気に対する正しい理解を、本人と家族の方に持って頂くこともきわめて重要です。

一過性脳虚血発作

 脳動脈硬化症の症状として、一過性に脳循環が障害されて、意識を失うことがあります。
フアッとなるだけのこともありますし、意識を失って倒れることもあります。
比較的高齢者に見られるのが特徴ですが、高齢になって発生するてんかん発作も少なくありませんので、慎重な診断が要求されます。
脳波検査、MRIなどの画像検査、患者さんの全身状態などを加味して、総合的に判断することになります。

心原性失神

 房室ブロックなどの心臓の病気が原因となり、脳に十分に血液が送られず、失神することがあります。
原因が心臓にあるだけに、ときには生命に直結する事態にもなりかねません。
心原性失神が疑われる場合は、専門家による十分な診断と治療が必要となります。

その他のてんかんに類似する発作

 上記以外にも、意識障害を伴うものとして、起立性低血圧、排尿失神、糖尿病性昏睡、脳炎、髄膜炎、薬物中毒など、多くの病態があります。
また、てんかん発作のけいれんと紛らわしいものに、低カルシウム血症、子供に見られるチック障害、くも膜下出血などもあります。
けいれんや失神には、てんかんだけではなく、いろんな種類の病気がてんかんと類似した症状を呈することを十分理解しておくことが大切でしょう。
 また、人間の心のメカニズムは、身体の機能に負けず劣らず複雑で、心の病が時にはてんかんと区別が困難であることを知っておくことも大切です。
心と体は密接に関連しており、心の葛藤は容易に身体的症状として表現されます。
その症状を、大脳機能である理性を用いて、判断したり、統御しようとしたりする人間は、実に複雑な存在です。
このことが、時に理性では自分自身をどうすることもできなくない状態に追い込んでしまうのです。




文責 清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)


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