向反発作


 向反発作とは、眼球と頭が一側に強く偏位する発作で、典型的な場合は、あたかも弓を引くように捻れる方向の手を挙上し、その手をさがすように、首と眼球が強く引っ張られるます。
必ずしも、典型的な向反発作とならない場合もあり、このような体のねじれを伴う発作を、単に姿勢発作と呼ぶこともあります。
向反発作や姿勢発作は単純部分発作の一種ですが、容易に意識が障害されて全般性発作に移行しやすい特徴があり、比較的頻度高い重要な発作型なので、あえて別の項目としました。

 向反発作は、主に前頭葉の内側、脳の正中線に近い場所から発生します。
運動野の直前で、脳の内側と表面の正中線に近い場所に補足運動野と呼ばれる場所があります。
補足運動野は名前の示すとおり、運動機能を補助する役割を果たしています。
補足運動野から発生する向反発作は典型的な場合が多く、眼球と頭がキューッと引っ張られるように片方に吸い寄せられます。
この後意識を失って全身けいれんに移行することも少なくありません。



 補足運動野より前方の前頭葉内側でも同じように半対側に捻れる発作が起きてきます。
焦点が内側や正中から離れてくると、向反発作の要素はなくなり、いきなり全身けいれんが起きることが多くなります。

 運動野の顔面を司る場所で、眼球を動かす場所の直前は前頭葉の目の領域 (frontal eye field) ともよばれ、この場所に焦点があると眼球が半対側に偏位します。
しばしば首の回転も伴なうので、補足運動野の焦点と鑑別する必要がでてきます。
また、前頭葉に広範囲に焦点が分散している場合でも、片方の手を挙上したり、眼球や首がねじれたりすることがあります。
脳波所見とビデオ記録の結果を比較すれば、てんかん焦点の場所を推定することが可能となります。

 眼球や頭が捻れるもう一つの場所が後頭葉です。
向反発作の大半は前頭葉から始まりますが、後頭葉が意外に盲点となることがあります。
後頭葉から起きる発作には以下の三つのタイプがあります。


後頭葉は視覚領ですので、種々のタイプの 視覚性発作が起きることは、単純部分発作の項でお話ししました。
側頭葉タイプの複雑部分発作が後頭葉から起きてくることもときどき見られます。
これは、後頭葉から直接発作が起きるのではなく、隣接した側頭葉の内側にてんかん波が伝播して複雑部分発作になるものと推測されます。

 後頭葉から起きる向反発作は、ビデオ記録をして観察すると、前頭葉タイプと少し異なった様相を呈しています。
前頭葉では、眼球が一気に強く引き寄せられますが、後頭葉の発作では、瞼をぴくつかせながら眼球が偏位していくことが多いようです。
まるで、光が当たってまぶしいように瞼をパチパチさせる症状は、後頭葉に特徴的な症状です。
 前頭葉からの向反発作では、最初の眼球の偏位はほぼ全例で焦点と半対側に向かいます。
これに反して、後頭葉の場合は、ビデオで細かく観察しないと、一端焦点と半対側に偏位した後、続いてゆっくりと焦点側に引き寄せられることもあります。
患者さんや家族のお話だけで判断すると、眼球運動の方向を反対に解釈する危険性がありますので、ビデオ記録で正確に診断する必要があります。
 向反発作や姿勢発作は、正確に焦点を診断すれば、外科的治療が可能です。
補足運動野の場合は、手術により一時的に半身の麻痺が出現しますが1ヶ月以内に回復します。
補足運動野より前方では、焦点を切除することが可能です。
また、広い範囲に焦点が分散している場合は、MSTという手術法により安全に手術が可能となります。
後頭葉用の場合は、焦点の場所が重要になります。
第一次視覚領と呼ばれる、後頭葉の内側が焦点に含まれていると、手術により視野の障害が出現します。
これ以外の場所であれば、比較的安全に手術をすることが可能です。




(文責) 清水弘之 (日本てんかん学会専門医・指導医)

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