てんかんの診断


 てんかん発作の診断には、まず症状が本当にてんかんであるかどうかを鑑別することが第一歩です。
一見てんかん発作と似たような症状を呈していても、全く別の病気であることも珍しくありません。
てんかん発作の診断には、発作症状、脳波、画像診断(特にMRI)の三つが大切な柱となります。
以下、この三つの柱について、具体的な内容を見てみましょう。

  1. 発作症状

  2.  てんかんの診断では、発作症状が最も大切です。
    実際、ほとんどの部分発作は、症状を観るだけで、てんかんの震源地である焦点が診断可能です。
    発作症状については、長い説明が必用なので、「発作症状」のページをご覧になって下さい。

  3. 脳波
  4.  

    てんかんの診断といえば脳波といわれるくらいに、脳波はてんかん診断にきわめて重要なものです。
    ここでは、脳波について知っておかないといけない基本的知識といろんな記録方法について説明しましょう。
    (脳波は時々刻々と変化する)
     脳波は時々刻々と変化するものです。
     従って、外来で一度脳波をとって正常だったから、自分の脳波は正常だと決め込むのは早合点というものです。
    脳波は異常が見つかれば確実な所見と言えますが、正常であったから、異常なしとは診断できないのです。
     なぜ、脳波は記録するたびに変化するのでしょう。それは、実に多くの要素が脳波に影響を与えるからです。
    たとえば、パッチリと目を覚ましているときと、眠くてうとうとしている時では、てんかん性異常波の出現する頻度は極端に異なります。
      脳波記録時の体調も大きく影響します。
    たとえば、生理前に決まって発作を起こす人は、生理前に脳波を記録すれば異常波がつかまりやすいと言えます。
    すでにてんかんと診断がついて抗てんかん薬を服用している場合は、抗てんかん薬を通常通り服用して脳波を記録するのと、脳波記録直前に抗てんかん薬を中止して脳波をとるのとでは、異常波の出やすさにかなり差が見られる場合があります。
    少しでも、脳波の診断能力を高めるために、これまでに、いろんな工夫が行われてきました。その幾つかを見てみましょう。

    (睡眠脳波)

     てんかんの診断のためには、睡眠脳波は不可欠です。
    十分に睡眠をとった後の目がパッチリと覚めた状態と、前日夜更かしをして、脳波の記録中にうとうとしているのでは、異常波の出現頻度に極端な差が見られます。
    これは、てんかん発作が睡眠不足の時に起こりやすいのと全く同じ理屈です。
    脳波記録の日は、朝は通常よりも一時間くらい早く起きるように、病院に来る途中の電車や車の中で居眠りをしないように、脳波を取り始めたらうとうとするのがいちばん大切ですよ、などと脳波記録の心構えを説明されのは、このような理由に依ります。
    (抗てんかん薬の中止)
    すでに抗てんかん薬を服用している患者さんの場合、外科的治療の目的で焦点を正確に診断するために、抗てんかん薬を中止して脳波を記録することが行われます。
    ただ、抗てんかん薬の中には、急に服用を中止すると激しいてんかん発作を起こす危険性を含んだものもあります。
    従って、医師は薬の効果の持続時間や急に中止した場合の危険性などを考慮して、どの薬をいつから中止するかを慎重に決定します。

    (蝶形骨誘導脳波)

     
     側頭葉てんかんの焦点は、側頭葉の内側にある海馬が中心となります。
    海馬からのスパイクは、通常の記録方法ではなかなか補足しがたいことが少なくありません。
    蝶形骨誘導法を用いると、海馬及びその周辺の異常波が強調されて、振幅の高い波として記録されます。
    蝶形骨とは、頭蓋底の骨の名前です。頬骨の中央のくぼみから、この頭蓋底の骨に向けて、長めの脳波電極を刺入します。
     蝶形骨誘導と睡眠脳波を組み合わせると、側頭葉てんかんの診断率は非常に高くなります。
    側頭葉てんかんは他のてんかんと異なり、焦点の首座がほとんどの場合海馬にありますので、左右のどちらが異常であるかを診断することがきわめて重要なのです。


    (終夜脳波)

     睡眠脳波がてんかん波の記録にきわめて重要であることを先に述べました。
    一晩ぶっ通しで自然睡眠の間、連続して脳波を記録しますとさらに診断効果が高まります。
    特に、夜間や明け方などに発作の多い方にはきわめて有効な検査となります。
    脳波の記録中に発作を起こす場合もありますので、ビデオを同時記録します
    こうすれば、脳波の異常だけでなく、患者さんの発作型を客観的に把握できますので一石二鳥の効果があります。

     

  5. 画像診断
  6. てんかん焦点診断のための画像診断には、MRI、CT、SPECT、PETなどいろんな種類があります。
    それぞれの検査の目的は異なりますが、最も重要な検査はMRIです。
    以下、MRIを中心に、各検査法の意味について述べましょう。

    1) MRI

     MRIの特徴は、きわめて精密に脳の構造を把握できること、脳の断層写真をどのような角度からでも自由に撮影できること、画像処理法に幾つかの種類があり、それらを組み合わせることにより病気の種類が診断可能になるなど、幾つかの利点があります。
    てんかん発作の診断の場合、MRI検査によりてんかんの原因となっている病巣が見つかることが少なくありません。
    以下、MRIで見つかる頻度の高いてんかんの原因とその特徴をあげてみます。

    (海馬硬化症)

     側頭葉てんかんの原因の大半は海馬硬化症に由来します。
    海馬硬化症とは、海馬が萎縮して小さくなった状態で、海馬が硬くなるのは、細胞成分が減少し、線維成分が増えたためです。
    MRIで海馬硬化症の診断がつけば、その部分の海馬を切除すれば側頭葉てんかんから解放される可能性があるわけで、きわめて重要です。
    しかし、海馬そのものは指先くらいの太さしかない小さな構造で、海馬硬化症で観察される海馬の萎縮も非常に微妙な程度のことが多いので、通常のMRI検査では正常として見逃されることが少なくありません。
    つまり、海馬硬化症を診断するには特別な検査方法と習熟した診断能力がないと困難なのです。

    海馬の形態を最も明瞭に描出するには、海馬の長軸に垂直な冠状断面の撮影が必要です。
    しかも、3 mm 位の、きわめて細かな間隔な撮影しないと、わずかな左右差を見落としてしまいます。
    MRIにはT1強調画像、T2強調画像、FLAIR画像など、いろんな種類の撮影方法があります。
    これらの撮影法にはそれぞれの利点があるので、うまく組み合わせて診断を行いますが、てんかんの診断には、特にFLAIR画像が有力です。
    海馬の冠状断面をFLAIR画像で撮影し、反対側と比較して明らかな萎縮があり、かつ、信号強度が高くなっていたら、それだけで海馬硬化症の診断をつけることができます。

    「側頭葉てんかん」の項目もご参照下さい


    (皮質形成障害)

     MRIの出現により最も診断されることの多くなった原因の一つが皮質形成障害です。
    特に、乳幼児や小児の難治てんかんの原因の多くは皮質形成障害が関連しています。
    皮質形成障害は、MRIできわめて明瞭な異常陰影として映し出されることもありますし、非常に未微妙な変化として出現し、左右の大脳半球を注意深く比較して、わずかな左右差として認識されることもあります。
    つまり、一口に皮質形成障害といっても、患者さん一人一人により異なっており、MRIで一目瞭然に診断できるものから、最新鋭のMRIでも診断困難なものまであります。
    病巣の広がりもまちまちで、狭い範囲に限局したもの、前頭葉や側頭葉などの複数の脳葉にまたがる広い範囲を占めるもの、片側巨脳症のように一側半球全体が形成異常におちいったもの、あるいは滑脳症のように両側半球すべてをおかすものまであります。

      病巣が一箇所であれば外科的治療にはきわめて有利ですが、脳波検査をすると、MRIに写っていない場所にもてんかん焦点が潜んでいることもあります。
    このように、MRIで診断された病巣は、脳波の裏付けがあって、初めててんかん発作の責任病巣としての意味をもつことになります。

    (脳腫瘍)
     
     てんかん発作のように長期間持続する病気の原因となっている脳腫瘍は、ほとんどが良性腫瘍で、
    母親の胎内にいるときに発生した先天性腫瘍が大部分を占めています。
     先天性腫瘍の大半は側頭葉に好んで発生し、側頭葉てんかんの原因となります。
     先天性腫瘍がてんかんの原因となるのは必ずしも小児に限ったものではありません。
    大人でもMRI検査で脳腫瘍が発見される場合もあります。
    脳腫瘍が発見されれば、手術によりてんかん発作が消失する可能性はきわめて高くなります。
     長期間抗てんかん薬を服用していて、発作がほとんどコントロールされている方は、一度はMRI検査を受けることが重要です。

    (血管腫)
    海綿状血管腫

     血管腫の中で、てんかんの原因となる頻度の最も高いものは海綿状血管腫です。
    海綿状血管腫はCTスキャンで小さな石灰化として見つかることがあります。
    また、MRIで小さな病巣として発見されることもしばしばあります。
     前頭葉や側頭葉にできることが多いですが、それ以外の場所にできることもあります。
    血管腫はてんかん発作の原因となるほかにまれに脳出血の原因ともなります。
     てんかん発作の診断の過程で血管腫が発見され、安全に切除できる部位であったら、てんかん発作と出血の二つを予防する目的で外科的治療を行った方がよいでしょう。

    脳動静脈奇形 てんかん外科よりも、通常の脳外科で手術される機会が多い血管腫のひとつに脳動静脈奇形があります。
    脳動静脈奇形は、てんかん発作で見つかる場合と脳出血で見つかる場合の二つがあります。
    動静脈奇形は安全に手術できる場合は外科的治療が行われますが、深部や危険な場所では、ガンマナイフによる治療が最も適しています。
    外科的治療で血管腫を切除しても、周辺の変性した細胞が残存すると、てんかん発作が消失しないことがあります。
    われわれの施設にも、動静脈奇形の手術後もてんかん発作が止まらず、てんかんの外科的治療の目的で訪れる方も珍しくありません。

    (脳萎縮と瘢痕)
     脳の萎縮や瘢痕がてんかんの焦点診断にしばしば役立ちます。
    脳萎縮や瘢痕脳は、過去に何らかの障害が脳に加わったことを意味しています。
    脳の萎縮には、大脳半球全体が萎縮した広範囲なものから、前頭葉や側頭葉といった一つの脳葉が萎縮したもの、さらにはもっと狭い範囲の脳が限局性に萎縮したものなどに分けられます。
    海馬硬化症も、限局性脳萎縮の一つの形ともいえるでしょう。
    脳萎縮の存在は、大脳機能の低下を示唆しますが、必ずしもMRI画像で見る脳萎縮と大脳機能は平行関係にはありません。
    大脳萎縮が存在しても比較的精神運動面の発達が保たれている方もいるし、MRI画像では全く正常に見える脳を持っていても、重症な知能低下を伴っていることもあります。
    脳の狭い範囲に萎縮があったり、脳組織が壊れて瘢痕化したりしている場合、てんかん焦点と関連していることがしばしばあります。
    発作症状が合致し、脳波異常が萎縮や瘢痕部に見られたら、外科的治療でてんかん発作を阻止できる可能性が高まります。
    しかし、中にはMRI画像上に限局性の萎縮や瘢痕が見られても、てんかん焦点が離れた場所に存在することもあります。
    てんかんは脳の異常な電気的現象であり、脳の形態異常が、イコールてんかん焦点とは決まっていません。
    あくまで、脳波的裏付けが不可欠な条件となります。

    2) CT MRIの出現により、脳の細かな形態学的診断はCTからMRIに取って代わりました。
    しかし、完全にCTスキャンの存在意義が消失したわけではありません。
    石灰化病変を描出するのはCTスキャンが最も得意とするところです。
    血管腫や脳腫瘍などが石灰化を伴っていることは少なくありません。
    CTで石灰化が発見され、MRIで精密検査を行ったら先天性脳腫瘍が確認された、などということは日常臨床でしばしば経験します。
    3) SPECT (スペクト)とPET(ポジトロンCT)

      MRIやCTが脳の形態を診断するのに対して、スペクト(SPECT)やポジトロンCT(PET)は脳の働きを調べることから、機能的検査と言えます。
    一般にてんかん焦点は、過去の脳の障害が原因となっていることが多く、てんかん焦点の脳血流量は低下しています。
    しかし、てんかん発作の最中に検査をしますと、焦点は異常な興奮状態にあることから、脳血流量は正常の脳以上に増加しています。
    このように、非発作時と発作最中のSPECTを撮影し、両者を比較することにより、てんかん焦点を診断することができます。
    最近では、発作時の血流が増加したSPECTから、非発作時の血流が低下したSPECTを引き算して、焦点をより明確に浮かび上がらせる技法なども開発されています。
     
    SPECTの最大の弱点は、機能的検査の性質上、解像力が悪いことです。
    まるで影絵を見ているようなぼんやりとした画像しか得られません。従って、大まかに血流が低下している部位を推定できますが、解剖学的に正確な場所を特定することは困難です。
    SPECTと比較してPETの方が、画像の解像力はかなり高くなります。
    さらに、脳血流以外にブドウ糖代謝など、いろんな種類の脳機能検査が可能です。
    PETによるブドウ糖代謝は、てんかん焦点部位をSPECTより高率に描出することが可能です。
    最近では、ブドウ糖代謝以外に、脳のベンゾジアゼピンのレセプター(受容体)を染め出すことにより、てんかん焦点を診断する試みも行われており、それなりの成果を上げています。
    しかし、SPECTやPETで異常範囲が発見されたから、すぐに外科的治療につながるわけではありません。
    これらの機能的検査は、解像力が悪く、影絵を見ているに過ぎませんから、発作症候、脳波などの確実な裏付けがなければ、単独では決定的診断根拠にはなり得ないのです。

  7. 神経心理学テスト
  8.  てんかん外科は常にてんかん発作を起こしている脳実質を対象とした手術ですので、手術による大脳機能の変化が非常に重要となります。
    そのような理由で、手術前後に細かく大脳機能をチェックして、手術により大脳機能が変化しなかったかを検査します。
    もうひとつの検査の目的として、側頭葉てんかんの場合には、記銘力検査の結果が、焦点の左右を決定する上で参考になります。
    言語優位半球は一般に左側ですので、左側にてんかん焦点がありますと、言語性記銘力が低下します。
    したがって、神経心理学テストで言語性記銘力が低下している場合は、左の側頭葉が焦点に含まれている可能性が高いわけです。
    また、小児ではてんかん発作のために精神運動面の発達に支障をきたしていないかを検査します。
    小児のてんかん手術では、単にてんかん発作を抑制するだけでなく、脳の発育を保護することも手術の大きな目的となります。
    従って、発作の頻度が余り高くなくても、てんかん波による脳障害の進行が著しい場合は、早期手術が必要となることもあります。

  9. アミタールテスト(ワダ・テスト)
  10.  

    人間の体で、左右対称にある器官は、通常同じような働きをします。
    しかし、大脳は、左右半球は同じような形をしていますが、その機能は非常に異なっています。
    一般的に、言語の機能は左半球で行われます。
    言語機能には、話す、聞いて理解する、読む、書く、などさまざまな種類があります。
    左大脳半球には、このような多様な言語機能が広範囲に分布しています。
    そのために、てんかんの外科的治療において、右半球と比較すると、切除可能な場所が極端に限られてきます。
    現在は、MSTという大脳機能温存を可能にした手術法が開発されているので、昔ほどの制約は無くなりましたが、それでも、左半球と右半球を手術する場合では、かなり条件が異なってきます。
    言語の優位半球は95%以上の人で左大脳半球ですが、中には右大脳半球で言語機能を営んでいる場合があります。
    たとえば、胎児期や新生児期に、左大脳半球に広範囲な損傷を被ると、言語機能が右側に移動することが少なくありません。
    また、手が左利きの人は、右利きの人に比較して、右半球が言語優位半球である割合が高いことが知られています。
    てんかん手術の前に、言語優位半球を診断しておくことは、手術方針を決定する上できわめて重要です。
    左右どちらの脳に言葉の機能があるかを診断する検査法がアミタールテストと呼ばれます。
    この方法の原理は、左右の半球を片方ずつ眠らせて、どちらを眠らせたときに言葉がしゃべれなくなるかを調べます。
    脳を片方ずつ眠らせるなどと聞くと驚かれるかもしれませんが、比較的簡単な方法で行うことができます。

     右腿(もも)の付け根から、大腿動脈にカテーテルを挿入し、頸部の動脈までカテーテルを上昇させていきます。
    首の動脈は、脳を栄養する内頚動脈と顔や頭皮に注ぐ外形動脈に分かれます。
    エックス線の透視下にカテーテルを内頚動脈に導き、ここで麻酔薬を注入します。
    右の脳に麻酔薬が入りますと、左手が麻痺してだらりと下がりますので、そこで注入を中止します。
    脳が麻痺しているのは数分間だけですので、この間に、名前、住所、生年月日など簡単な質問をして、言語機能が保たれているかを検査します。
    右の脳が麻酔から完全に覚醒したら、同じ検査を左の脳についても行います。
    通常は、左の脳が麻酔されると言葉が出なくなります。回復の過程で、同じ言葉を繰り返したり(保続)、間違った言葉を言う(錯語)などの、失語症の患者さんと同じような症状が、一過性に見られます。


     言語のテスト同時に、左右どちらの脳で主に記憶を司っているか、記憶の検査も可能ですが、記憶に関係する海馬を養う血管は後大脳動脈で、内頚動脈から麻酔薬を注入した結果については、100%確実ではありません。
    この脳を麻酔させるときに使用する薬剤の名前がアミタールなので、検査の名前はアミタールテストと呼ばれてきました。
    アミタールは外国の薬品名で、日本ではイソミタールという商品名で発売されていました。
    しかし、最近、この麻酔薬が製造中止となり、アミタールテストを行うのが困難になりました。
    イソミタールに代用できる薬として、最近プロポフォール(商品名ディプリバン)が使用されることが多くなりました。
    私どもの施設でもこの薬剤を使用していますが、アミタールとほぼ同様に検査が可能です。
    ところで、アミタールテストを開発したのは日本人で、和田純という精神科の先生です。
    和田先生は、カナダのブリティッシュコロンビア大学の精神科の教授でしたが、若い頃、同じカナダのモントリオール神経学研究所に勉強に行かれ、この研究所でアミタールテストを開発されました。
    この検査が初めて医学論文に発表されたのは1960年のことです。
    外国では、アミタールテストと呼ぶよりも、発案者の名前をとってWada testと呼ばれる方が一般的です。
    検査薬としてアミタールが使用されなくなった現在、日本でもワダ・テストと呼ぶのが適切かと思います。
    なお、ワダ・テストの際に、同時に脳血管撮影を施行し、脳の動脈や静脈の状態を詳細に検査できますので、この結果も手術に非常に有用なデータとなります。

  11. その他の最近の検査

  12. 1)MEG(脳磁図)
     電気が流れるとその周辺に磁場が発生します。
    この磁場の変化を記録したのがMEGです。
    MEGは電極の装着が不要なこと、頭蓋骨の影響が少ないなどの利点があります。
    理論的には、脳波と同じようにMEG上でスパイクを記録し、これの発生源をコンピュータを用いて解析します。
    従って、スパイクが記録されないと焦点の診断は困難です。
    また、発作時の記録を行うことはできません。
    MEGは脳表面に近い場所のてんかん焦点の診断にはきわめて威力を発揮します。
    MEGで診断された焦点の発生部位はMRI上に重ねて表現されますので、解剖学的に焦点を把握するのが容易になります。
    脳波とMEGは基本的には焦点の電気現象を見ているわけですが、互いに90度方向の異なった成分を観察しています。
    従って、両者を相補的に使用することにより、てんかん焦点の診断精度をより高めることができます。

    2) 脳波双極子追跡法 (脳波ダイポール検査)
     双極子(ダイポール)とは、てんかん焦点の電気活動の位置、向き、大きさなどをベクトルとして表現したものと考えることができます。
    脳波双極子追跡法はMEGと比較して脳深部の焦点の診断に比較的有力とされています。
    従って、両者を相補的に用いればより診断精度が高まることが期待されます。
    また、脳波双極子追跡法もMEGと同様に体性感覚誘発電位や視覚誘発電位などにより、大脳機能の局在を診断することが可能です。
    ただし、現状では、脳波双極子追跡法は限られた施設で臨床的研究的に行われているのが実状で、脳波のルーチン検査として施行されるところにまで至っていません。3) fMRI(機能的MRI)
     通常のMRIが脳の形態の診断を主とするのに対して,機能的MRIは血液の酸化の状況を画像化することにより、脳が活発に働いている部位を検査することができます。
    たとえば、患者さんに言語活動をさせながら検査をすれば、言語機能として働いている脳の部位がホットに画像化されるわけです。
    実際には非常に弱い信号を集積して、統計学的処理に有意差のある箇所をドット(点の集まり)で示しています。
    そのために、明瞭なスポットが一箇所に得られるわけではなく、あくまでも、統計学的に推定されるいくつかの箇所が、あちこちに出現します。  
    脳の活動は、言葉を話す時でも、単に言語野だけでなく、注意力、そのときに想像した過去の記憶など、様々な分野が同時に活動している可能性があり、fMRIの解釈も単純にはいきません。  
    今後、この検査法の信頼性が高まれば、脳の言語優位半球を決定する手段として、アミタール検査に取って代わる可能性があり、きわめて有望視されています。

    4) 磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)
     MRSはMRIの装置を用いて局所の脳代謝を把握する検査法です。
    現在MRSの対象となる元素としては、水素とリンがあります。
    てんかん焦点でのMRS 検査では、焦点側のN-アセチルアスパラギン酸が低下していたり、フォスホクレアチンと無機性リン酸の比率 (PCr/Pi)が低下していることなどから、側頭葉てんかんにおける焦点の側方性(焦点が右か左か)を決定するのに有効です。  
    また、てんかん以外でも、脳腫瘍、脳梗塞、多発性硬化症などの診断にも応用されつつありますが、まだルーチン検査として確立するところまでにいっておらず、将来性を含んだ検査として、今後の発展が期待されます。

    5) 近赤外線分光法(NIRS)
     この検査法は、赤外線に近い光線は皮膚や骨を透過する性質を持っています。
    これを体外から脳組織に照射すると、酸化ヘモグロビンや脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化を測定することができます。  
    てんかんの焦点は、非発作時は局所の脳代謝が低下しており、発作時には急激に増大しますので、近赤外線分光法を用いれば焦点部位を推測することができます。  
    しかし、近赤外線は脳表から届く距離が短いため、脳表に近い範囲しか診断することができません。
    また、脳のある範囲が萎縮していれば、当然その範囲の血液量も減少するために、結果に誤差が含まれる可能性があります。

    6) 脳磁気刺激(磁気誘発電位 MEP)
    頭皮上においたコイルにパルス電流を流すことにより瞬間的に強磁場を発生させ、頭の中に渦電流を誘発し、外から大脳を刺激することができます。  
    磁気刺激により運動野を刺激することにより、対応する部位の筋肉から誘発電位を記録する方法が磁気誘発電位(MEP)です。  
    乳幼児期から片麻痺が存在すると、対側半球がかなりの程度に代償しているために、片麻痺の程度も軽く、神経症状だけからでは、患側半球の運動機能が残存しているかどうかを判断するのが困難なことが少なくありません。
    このような場合、MEPを記録することにより、客観的に正確な判定を下すことができます。  
    最近では、経頭蓋磁気刺激療法として、パーキンソン病やうつ病の治療などにも、大脳の磁気刺激が応用されています。

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